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コラム9-4 テレビ放送における低遅延映像伝送システムの利用

 このコラムは,映像情報メディア学会誌に掲載された記事[9-108][9-109]の要約です.ディジタル化はとかく遅延時間を増やすことになり,テレビ会議システムにとっては注意を要します.テレビジョン放送でも低遅延の要求があることは心強いので,取り上げます.
 テレビ放送のディジタル化により,番組制作上問題になるのは遅延時間の増加です.通常のMPEG-2による素材伝送では0.3〜0.5秒遅延し,放送にいたっては2秒の遅延が生じます.これに起因し,例えば,次のような問題が生じます.

  • ワイアレスカメラからのディジタル映像が遅延するため,ゴルフのカップインに際し,アナログ伝送による音とタイミングが合わず,カップインの音はしたのに画面ではまだボールが転がっている.
  • 飛行機事故現場の模様を中継する際,カメラを遠隔制御しようとすると,制御結果の映像が遅れて届くため,制御が実質上不可能になり,一度焦点を合わせた後はカメラを固定して運用せざるを得なかった.
  • 事件現場とスタジオを結んで掛け合いの番組とする場合,スタジオから現場への映像(業界用語で「送り返し」)は,以前は遅延のないアナログ放送の受信映像を使っていた.しかし,2011年7月のアナログ放送終了後は,スタジオからの映像が届くまで2秒を要するので,掛け合いにはならない.従って,低遅延の送り返し装置が必要になる.

 日テレでは,(株)テクノマセマティカルの協力を得て,映像符号化データ発生量の変動を抑え,データ発生の平滑化に要するバッファを減らして,インターネットにより8 msの遅延で映像伝送する装置を開発しました.現在高圧縮映像符号化の主流であるフレーム間符号化の方法では,定期的にフレーム内符号化のIフレームを送って,伝送誤りで画面が壊れた場合などに備え画面のリフレッシュを図っています.しかし,Iフレームと通常のフレーム間符号化Pフレームでは発生情報量が大きく違い,定められたビットレートで出力するには大きなバッファを必要とします.
 これを解決する方法としてイントラスライス技術が知られています.一画面全体をフレーム内符号化するのではなく,ある画面では例えば16ラインの幅(スライス)だけフレーム内符号化とし,次の画面では続くスライスをフレーム内符号化する方法です.日テレではさらにこの方向を押し進め,フレーム内符号化を画面の垂直方向の16画素幅に取ることで,スライス単位の情報発生量を平滑化して,所要バッファ量を極端に減らしています.
 この低遅延送り返し装置は,掛け合い番組のみでなく,バレー放送で得点などの情報スーパーを現場ではなく本社側で挿入する際,放送映像では見えにくい審判の判定映像を送ることによって支援することなどにも使われています.
 このテーマについては,その後,2011年11月の『放送技術』誌[9-110]でも各放送会社の低遅延映像伝送システムが紹介されています.