VTVジャパン テレビ会議教科書

テレビ会議教科書 VTVジャパン株式会社

8.1.3 C&I信号

 テレビ会議のようなオーディオビジュアル通信システムが円滑に動作するためには,C&I信号と総称される様々な信号が必要になります.これらは,大きくは次の範疇のいずれかに属します.

  • 制御信号(Control)-- これを受信するとあらかじめ決められたアクションを起こし,システムの状態が変化します.
  • 表示信号(Indication)-- これを受信してもシステム状態に変化が起きることはありませんが,利用者にとって有用な表示を可能にします.
  • 好ましい選択肢の表示(Preference Indication)-- 受信側から送信側に望みの動作モードを提示します.
  • 要素(Element):単独では意味を持たない数字や文字ですが,制御信号や表示信号と組み合わさって意味を持ちます.

 最も原始的なC&I信号は,映像codecの動作に関わるものです.フレーム間符号化では符号化済みフレームの情報を用いて効率的に圧縮符号化しますが,復号側で何らかの理由によりストリームの一部を受信できない事態が生じると以降のストリームの復号ができなくなってしまいます.そこで復号器から符号器に向けて全イントラ符号化の画面を送るようFast Update Request信号を送ります.これを受信した符号器は,直ちに次のフレームの最初から全イントラ符号化で符号化し,受信側での画面再生を可能にします.逆に送信側であらかじめカメラ切換などにより受信側に画面の乱れが生じることが分かっている場合は,復号器にFreeze Picture Request信号を送って,受信側の表示画面を静止画とし,符号器からの映像信号に埋め込んだFreeze Picture Releaseで動画表示に切り替えます.これらを含め,C&I信号は次の領域を対象にしています.

  • 映像 -- Fast Update Request, Video active, Video inactiveなど
  • 音声 -- ミュートon/offなど
  • 保守 -- 音声,映像,チャネルのループ指示など
  • 多地点間通信 -- 表示映像指定,会議on,マスターMCU表示など
  • ユーザ入力 -- 操作案内,ソフトキーボードなど

 C&I信号の機能は同じであっても,その表現方法(ビット,ASN.1[8-9], ABNF (Augmented Backus-Naur Form)[8-20], XML[8-21])やその伝送方法(H.221 BAS符号,H.245メッセージ,RTCP)は,図8-8に示しますように,オーディオビジュアル通信システムによって異なります.基本となるのはH.320システムのための勧告ITU-T H.230[8-22]です.

 伝送方法を決めるには,C&I信号と制御対象メディア信号との同期関係を考慮する必要があります.例えば,上記Freeze Picture Releaseの例は,映像の構造と密接に関係するため,映像信号に埋め込まれています.H.320システムでは,H.320[8-2]のTable 6とTable 7に必須とオプションのC&I信号一覧を掲載しています.また,H.320システムとH.323システムは,後の第9.6項で述べますが,ゲートウェイを介して相互接続することが想定されていましたので,C&I信号についてもその対応関係が勧告ITU-T H.246[8-23]に記載されています.

各種のC&I信号は文献[8-24]Annexに網羅されています.信号名のほか,制御信号と表示信号の別,信号の発信源,受信源,関連標準,伝送方法を記しています.代表的なC&I信号の抜粋を図8-9に示します.

図8-8 各種オーディオビジュアル通信システムのC&I信号
図8-8 各種オーディオビジュアル通信システムのC&I信号

ISDN利用のH.320システム,IP網利用のH.323システム,同じくIP網利用のSIPシステムのC&I信号(制御・表示信号)について,それを定義している標準,信号の表現方法,伝送チャネルを示しています.

図8-9 代表的なC&I信号抜粋
図8-9 代表的なC&I信号抜粋

映像,音声,保守,多地点間通信,ユーザ入力に関わる代表的C&I信号の特性を示しています.H.320システムとH.323システムのC&I信号は大半が同じ内容で表現が異なることからa)で,SIPシステムのC&I信号は別にb)で示します.