10.2 標準化のメリットとデメリット
標準化のメリットとデメリットを図10-6に示します.以下に各項目について説明します.
図10-6 標準化のメリットとデメリット
標準化の最大の目的でありかつメリットとなるのは,相互接続性です.またデメリットは,標準化により技術が固定化されますので,その後に出てくる技術の恩恵を受けることが難しくなる点です.
- メリット1:
物やサービスを市場に展開するとき,標準が必要な場合とそうでない場合があります.例えば身近な腕時計の例では,各社が独自に工夫をし特徴のある製品を作って世に出すことで競っています.製品の利用者もそれで不都合なことはありません.しかし,テレビ会議のような通信,情報に関わる製品では,他の製品とつながって動作するか否かでその利用価値は格段に変わってきます.これは,異なる会社の製品間だけでなく,同一会社の製品でもモデルが違う場合にあてはまります.標準化のメリットの第一は,多様な製品が相互につながる相互接続性です.1865年に設立された万国電信連合(現在のITUにつながる)で電信の規格を定めたのが最初の国際標準化で,1947年に設立されたISOではボルトとナットの規格を最初に定めました.いずれも相互接続性の実現が目的です. - メリット2:
製品に関わる標準が定まることで,製造会社ではその製品を安心して大量生産することができ,価格の低下がもたらされます.これが第二のメリットです. - メリット3:
標準は最新の技術を結集して作られます.従って標準に準拠する製品を実現することは,最新の技術を獲得することにつながります.これが基になって次の技術革新をもたらす技術開発を期待できます.これも標準化のメリットです. - メリット4:
最後に,貿易の国際化に伴い,現在では自由な多国間貿易が求められています.ある国で物品やシステムを調達する場合,その国独自の仕様だとすると,他国には作りにくい,すなわち非関税障壁を設けて市場参入を阻止していると見なされます.この問題を避けるには,国際標準に従った仕様にする必要があります.
- デメリット1:
標準化により技術が固定化され,その後の技術進歩の恩恵を受けられなくなります.標準はその時の最良の技術を結集して作られますので,その準拠製品の性能は優れたものになり大量に導入されますが,時間の経過とともに新しい技術が登場します.しかし既に市場に普及した製品を取り替えることは容易ではありません.ディジタル・テレビジョン放送方式が典型的な例です.CS (Communication Satellite),BS (Broadcasting Satellite)ならびに地上デジタル放送では,映像符号化にMPEG-2が使われています.これは規格を定めた1996年当時では最良の技術でした.しかし,今ではより高圧縮のH.264/AVC(MPEG-2に比べ約2倍の圧縮率),さらにはH.265/HEVC(MPEG-2に比べ約4倍の圧縮率)があるにも関わらず,取り替えることはできません.この点は,標準化のデメリットと言うよりは副作用と言うのが正確かもしれません. - デメリット2:
非関税障壁に関連して言及しましたが,標準が国内標準の場合,それに従うことが国内企業保護と見なされる場合があります.AC電源のプラグとコンセントの例や,アナログ・カラーテレビ放送の標準が地域によってNTSC,PAL,SECAMと異なっていた例が該当します.