VTVジャパン テレビ会議教科書

テレビ会議教科書 VTVジャパン株式会社

3.3.6 通信の流れ

 マルチポイントテレビ会議通信の流れを,ISDN上のシステムについて規定したH.243[3-16]に従い,映像切替の場合について紹介します.IP上のシステムにおけるマルチポイント動作はH.323[3-17]に記述されていますが,基本的な手順や制御コマンドはH.243がモデルになっています.
 映像切替のMCUでは,MCUと各端末間の映像チャネルビットレートは双方向で正確に合っていなければなりませんし,ISDN回線は双方向対称のチャネルを提供しますので,音声チャネルも双方向でビットレートが合っていなければなりません.このように制御するのがH.230[3-24] MCC (Multipoint Command Conference)です.MCUからMCCコマンドを受けた端末は,転送レート,音声チャネルレートをMCUから示された値に設定します.

1) 最初の端末がMCUに接続される

 マルチポイントテレビ会議は,最初の端末がDチャネルを通じQ.931[3-23]メッセージを送ってMCUと呼接続することで始まります.マルチポイントのテレビ会議はMCUならびに複数の端末に共通する通信モードを決定しなければなりませんので,通信制御が複雑になります.そこで,MCUに対し推奨の動作モードがSelected Communication Mode (SCM)としてH.231, H.243に定義されています.MCUは最初の端末との能力交換の際,SCMに属する能力セット(SCM-cap)を提示します.SCM-capは単一のコードではなく,SCMの転送レート,音声メディア,映像メディア,データメディアに関わる能力コード群を指しています.
 SCM-capに続き,MCUは最初の端末に対しH.230 C&I (Control and Indication,第3.2.4項参照)コードであるMCCとMIZ (Multipoint Indication Zero-communication)を送出します.MCCは送受信チャネルの対称性を確保し,MIZはMCUに接続した最初の端末であることを表示します.これらでマルチポイント通信が確立中であること,他の端末はまだ接続されていないことを端末(利用者)に知らせます.音声符号化モードが決定されるまで,MCUは第一端末の音声をMCU音声合成ユニットには送らず,端末に対してはH.221[3-25]音声offコマンドを送る,あるいは利用者に無音信号を送り出すか録音された音声メッセージを送る,のいずれかを行います.
 その後,MCUは第一端末の能力を登録します.第一端末にどのような映像を送り出すかはMCU設計の自由です.

2) 第二端末がMCUに接続される

 MCUは第二端末にH.230 MCCの後SCM-capを送ります.音声符号化モードが決定されるまで,MCUは第二端末の音声をMCU音声処理ユニットには送らず,端末に対しては音声offコマンドを送る,あるいは利用者に無音信号を送り出すか音声メッセージを送る,のいずれかを行います.
 その後,MCUは第二端末の能力を登録します.MCUが双方の端末ともマルチフレーム同期が正常(H.221で規定する"Aビット"の値が0)でメディア信号を受信可能と確認できれば,MCUは双方の端末の音声信号を音声合成ユニットに接続して,端末間の音声通信開始に備えます.その際,第一端末にはH.230 Cancel-MIZコードが送られ,第一端末以外にもMCUに接続された端末のあることを表示します.MCUからはSCMに含まれる音声符号化モードに対応したH.221 BASコードが送出され,音声合成ユニット出力音声が両端末に流れます.
 同様に,映像符号化モードのH.221 BASコード送出に続き.映像信号はMCUの切替/合成処理ユニットから双方の端末に流れます.

3) 第三端末以降がMCUに接続される

 第二端末の接続時と同様に処理されます.端末に対し送り出す映像が切り替わる場合は,切替時の映像乱れを回避するため,まず受信端末にH.230 VCF (Video Command "Freeze picture request")を送ってデコーダをフリーズさせ,新たな送信元の端末にはH.230 VCU (Video Command "fast Update request")を送ってエンコーダに全イントラ符号化の初期化動作を促します.

 映像合成を行うマルチポイント会議では,各端末とMCU間のチャネル速度や符号化方法の選択は,原理的には各端末・MCU接続毎に独立ですので,通信の流れもポイント・ツー・ポイント接続の場合が適用されます.