コラム4-2 スペクトラム反転形秘話装置
コラム4-1と同じ時期,1979年の経験です.NTT研究所を結ぶテレビ会議システムは幹部の会議にも使われましたので,セキュリティへの考慮が必要ではないかということになり,音声信号の低周波から高周波に広がるスペクトラムを反転して伝送し受信側で元に戻す秘話装置を実験しました.仕組みを図C4-2に示します.
図C4-2 スペクトラム反転形秘話装置
10 kHz帯域のテレビ会議音声信号を搬送波周波数10.05 kHzで変調してその下側帯波のみを伝送路に送り出し,受信側では再び搬送波周波数10.05 kHzで変調してその下側帯波のみを取り出して,元の音声を再現します.スペクトラムが反転した音を聞いても判別できないことが期待されました.
この方法は至って古典的なもので[4-25],アナログ時代ならではの技術を利用しています.10 kHz帯域の音声信号を10.05 kHzの搬送波で変調し,その下側帯波のみを伝送路に送り出します.これを受信側では再び10.05 kHzの搬送波で変調し下側帯波のみを取り出すことで元に戻します.伝送路を流れるスペクトラム反転の音声信号を耳で聞いてもわからないことが期待されました.
しかし,実験の結果[4-26]は残念なものでした.
- 「シ」「シュ」「パ」など単音節では正答率が2%
- 「44」「95」などの2桁乱数では正答率が43%
- ニュース,天気予報,番組案内などのラジオ番組では,テーマの正答率が66%
単発の音では聞き取り難いものの,文章になると何を言っているかがわかる,ということで,スペクトラム反転には軽い秘話の効果しかないことがわかりました.筆者の印象に残っているのは,天気予報で最初の「東京地方では」が聞き取れると,後は芋づる式に次は晴れとか曇り,次は風向き,次は風力,などと聞き取れてしまうことでした.