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コラム2-2 テレビ会議対テレプレゼンス

(本コラムは,VTVジャパン株式会社が発行するテレビ会議システム総合カタログ03 <2011 Summer>号に寄稿した〜テレビ会議今昔〜に手を加えたものです)

1) 今はテレプレゼンス,昔はテレビ会議?

 いいえ,テレビ会議は昔テレプレゼンスでした.「テレビ会議」は1970年頃,誕生しました.それまでに,電話に取って代わるテレビ電話を目指して,世界各国で開発,試験の努力が続けられましたが,結局利用者に受け入れられるには至らなかったのです.その映像通信技術を活かしたいとビジネス活動を見渡したとき,半分近くの時間が会議・打ち合わせに費やされていました.そこで,本社と支社のように離れた場所にいながら,あたかも一堂に会したような雰囲気で会議ができるテレビ会議のコンセプトが生まれました.
 一方「テレプレゼンス」は2006年に初めてCisco社の製品に付けられた名前で,離れていてもあたかもそこに存在しているように感じられるテレビ会議システムのことです.国際標準ITU-T F.734[2-68]では,利用者体験の視点で,テレビ会議の中でも特に一つのテーブルを囲んで等身大で参加者が表示され,一つの部屋にいるような工夫がされたものをテレプレゼンスと定義しています.テレプレゼンスの部屋は専用に設計され,照明灯の位置,色温度,壁の色や吸音率,テーブルの形や色,カメラやマイクを目立たせない,などに注意深い処置が施されています.
 技術的にはマルチカメラ,マルチディスプレイがテレプレゼンスの特徴ですが,その点でも当初のテレビ会議は2カメラ,2ディスプレイのシステムでした.
 テレビ会議誕生の頃は,勿論「テレプレゼンス」という言葉は存在しませんでしたが,設計思想は全く共通です.
 もう一つの共通点をあげますと,当初のテレビ会議室にしろ現在のテレプレゼンス室にしろ,大がかりで高価になりますので,利用者が自分で保有することが難しくなります.そこで,ホテルの部屋をテレビ会議室にして,利用者がそこに出かけて会議に参加するという公衆テレビ会議が,我が国では1976年に東京と大阪のホテルを結んで試みられていますし,現在のテレプレゼンスでもそのようなサービスが提供されています.歴史は巡る,です.

2) テレビ会議の進化は?

 テレビ会議システムは利用できる広帯域ネットワークに大きく依存しています.次の3世代で進化してきました.
・第一世代(1970年代初め〜1980年代半ば)アナログネットワークを利用
・第二世代(1980年代半ば〜1990年代後半)ディジタル専用線やISDNのディジタル回線と帯域圧縮符号化を利用
・第三世代(1990年代後半以降)IP網と帯域圧縮符号化を利用
 この流れは,最近のテレプレゼンスを除けば,大がかりな部屋丸ごとのシステムから会議室の片隅に置けるような可搬形システムへの進化でもあります.これにより,テレビ会議がコスト的にも利用者の手許で気軽に利用できるようになり,広く普及することとなりました.
 帯域圧縮符号化技術の進展で比較的低いビットレートでも品質良く音声,映像の送受信ができるようになったことが貢献していますが,MVP (Most Valuable Player,最高殊勲選手)をあげるとすると音響エコーキャンセラ技術の進展です.
 第一世代では,音量を上げて話しを聞きやすくしたい,そうするとハウリングが起きてしまう,というジレンマに悩まされ,スピーカからマイクへの音の回り込みを防ぐため床にじゅうたんを敷き,壁に吸音材料を貼るなど,テレビ会議室のアプローチにならざるを得なかったと言えます.ディジタル信号処理による音響エコーキャンセラの実用化で,ハウリングを気にすることなく多様な場所にテレビ会議装置を設置できるようになりました.

3) 昔は良かった?

 ディジタル技術により,安価で安定し使いやすいテレビ会議システムが実現できましたが,唯一アナログ時代の方が優れていた特性があります.それは遅延です.遅延のもとは音声映像信号をメモリに一時蓄えることで,高度な処理をしたりネットワークに出て行く際のトラフィックに極端なピークの出ないようにするためです.アナログ時代にはメモリは使いたくても使えるデバイスがなかった,従って遅延も生じなかった,という事情です.
 音声,映像が遅延なく伝わることは,テレビ会議参加者の存在感や臨場感をかもしだす重要な要因です.克服すべき現代の技術課題です.

4) テレビ会議の未来は?

 人のいるところにテレビ会議ありです.組織の中で仕事をしているのは人,人と人とが意思や情報や気持ちを伝えるには会って話すことが一番です.昔も今もそして未来も変わることはありません.テレビ会議はそれを支援します.
 2011年3月11日の東日本大震災でも,企業が各拠点の状況を把握し被害へ対処するのに遠隔会議が有効だった,と伝えられています.