VTVジャパン テレビ会議教科書

テレビ会議教科書 VTVジャパン株式会社

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2.3.12 高品質テレプレゼンス・システム

 テレビ会議がビジネスのツールとして定着するにつれ,よりよい映像品質が求められるようになってきます.2000年代前半まではSDTV(Standard Definition TV)品質が主流でしたが,2000年代半ばよりHD化への流れが生じます.ここでHDとはHigh Definition,高解像度のことで,HDTV映像利用システムの一般化が始まります.HDTVの範疇には,720p(垂直方向に720画素のプログレッシブ映像),1080i(垂直方向に1080画素のインタレース映像),1080p(垂直方向に1080画素のプログレッシブ映像)が入ります.HD化の流れを支えたのは,テレビ会議システム利用者の高品質要求以外に,次の展開が挙げられます.

  • 地上波デジタル放送の開始 -- 日本では2003年12月に従来のSDTVに置き換わるHDTV放送が始まりました.これでHDTV映像が多くの人にとって普通の映像となりました.
  • HD映像機器の普及 -- HDTV放送の開始にともないHDTVのディスプレイ,カメラなどテレビ会議に必要な機器が実用的になりました.
  • 高能率の映像符号化標準の完成 -- H.264/AVC (Advanced Video Coding)[2-60]が2003年5月に成立し,従来に比べ2倍の圧縮効率を実現することでネットワークの効率的利用が可能になりました.
  • ネットワークの広帯域化 -- HDTV映像の伝送に必要な数Mbit/sクラスのチャネルがテレビ会議でも利用可能になりました.

 HD化の流れの頂点に立つのが,テレプレゼンス・システムの登場です.2006年10月Cisco社がTelePresenceの商品名で発表しました(図2-18).一つの会議室から3チャネルのHDTV映像を送り出し,会議参加者像を高解像で表示するとともに,会議テーブルや会議室を二つの会議室で同じ設えにすることにより,あたかも一つのテーブルを囲む会議のような雰囲気を実現しようとしています.音声系も比例して広帯域化,マルチチャネル化が図られています.

図2-18 テレプレゼンス・システム
図2-18 テレプレゼンス・システム

2006年10月に発表されたCisco TelePresence 3000の会議室です.離れた会議室の参加者が一つのテーブルを囲んでいるような設計になっています.相手会議室からは3本のHDTV映像が送られ,3台のディスプレイにそれぞれ表示されます.

 テレプレゼンス・システムは当然高価になりますので,経営トップの会議に使うのが典型的で,ホテルに設置して共用するサービス[2-61]も行われています.会議室と端末装置が一体になった設計,映像の複数ストリーム多重・分離やホテル設置形のサービスの点で,第2.3.5項第2.3.6項で述べたテレビ会議開発初期の様相を呈しているのは,興味深いことです.