VTVジャパン テレビ会議教科書

テレビ会議教科書 VTVジャパン株式会社

3.2.4 システム制御

 テレビ会議利用者の意志をテレビ会議システムに伝えて望み通りに動作させる機能です.制御信号のやりとりは利用者の目には見えませんが,これがなければテレビ会議端末は単に音声や映像を送受信するだけの箱となってしまいます.
 システム制御信号は,大きくは両端末間で送受信するエンド・エンド制御信号と,端末とネットワーク間で送受信するエンド・ネットワーク制御信号に分かれます.前者は回線が接続されてからの制御に用いられ,後者は回線接続の制御とそれに先立つ登録などの制御に用いられます.
 テレビ会議利用者である人間とネットワークを含むテレビ会議システムの間を結ぶのはシステム制御インタフェースで,代表的には図3-2に示しましたように複数の機能ボタンや数字ボタンのついたリモコンです.テレビ会議システム開発当初は会議室に設えられた制御卓で制御を行っていました.近年は,リモコンに代わり,スマートホンやタブレットを用いたテレビ会議制御も行われています.一例を図3-7に示します.

図3-7 タブレットによるテレビ会議システム制御の例
図3-7 タブレットによるテレビ会議システム制御の例

リモコンに代わりタブレットを用いることで,テレビ会議の動作フェーズに合わせた制御項目を表示することができ,利用者は迷うことなく制御できますし,必要なときにはガイダンス情報を表示することで利用者を助けることができます.

 エンド・エンド制御機能の代表例は,音声・映像・データのメディア情報送受信に先立つ能力交換と通信モード決定(図3-8)です.ネットワークにはテレビ会議端末のみでなく多様な機器が接続されること,テレビ会議端末であっても製造メーカが異なる場合,製造メーカが同じであっても製品の世代が異なる場合があります.端末相互にどのような通信能力(例えば搭載codecの種類)を有しているかを伝えあい,共通最大の送受信能力を見つけられるようにします.そのうえで,利用者の指定も反映し,動作モードを決定して,相手に伝え,メディア情報を送受信することになります.テレビ会議システムでは,送信側と受信側で通信モードを折衝し合意に至って初めてメディア情報を流すのが原則です.

図3-8 テレビ会議システムの能力交換と通信モード決定
図3-8 テレビ会議システムの能力交換と通信モード決定

メディアストリームの受信側から,受信能力を送信側に伝え,送信側ではテレビ会議利用者の望みと自らの送信能力を勘案し,最善の通信モードを決定します.この決定が受信側に伝えられた後にメディアストリームは送出されます.

 通信能力の提示には,標準で定められたモードだけでなく,各社独自の動作モードも入れることができます.これによりメーカ各社は他社の製品とは標準のモードで通信し,自社製品間であれば特性の優れた,あるいは特徴のある非標準モードで動作させることで製品の差別化を可能にします.
 これら能力の折衝,非標準モードの活用は,G3ファクシミリ[3-12]におけるT.30手順[3-13]に倣いました.
 エンド・エンド制御の中には,テレビ会議利用者の意志を伝える項目があります.代表的なのは,マイクをミュート(動作停止)したことを相手会議室に伝える表示,遠隔会議室のカメラの向きやズーム率を変える遠隔カメラ制御です.その他にテレビ会議を円滑,快適に進行させるための各種制御・表示の信号が定義され,活用されます.遠隔カメラ制御信号のようにそれを送ると受信側でアクションを要する信号は制御(Control)信号と呼び,ミュート表示のように受信側でアクションは伴わないがシステム状態を伝える信号は表示(Indication)信号と呼び,両者をまとめてC&I信号と呼びます.
 エンド・ネットワーク制御機能の代表例は,接続相手までの通信チャネルを設定する呼制御です.図3-2に示したH.320システムの場合であれば,ISDNの電話番号をダイヤルすることで,交換機にその情報が伝わり,64 kbit/sのチャネルが設定されます.また,後述するIP網上のH.323システムの場合には,相手端末のID(IDentifier,電話番号,メールアドレスなど)を交換機に相当するゲートキーパに伝え,そこで最終的には相手端末のIPアドレスに変換して,送受端末間の通信チャネルを設定します.その他,H.323システムの場合,呼設定に先立ち端末をゲートキーパに登録することもエンド・ネットワーク制御に含まれます.