3.2.2 映像メディア処理
テレビ会議システムで送受信される映像情報は,主に出席者の姿で,時に会議室周辺の様子や物の場合もあります.また書画カメラによる平面の図面や回路基板のような実物の像の場合もあります.カメラで撮影された映像は相手会議室に送り出され,相手会議室から受信した映像はディスプレイに表示されます.
そのほか第二の映像として,PC出力画面の映像が上記出席者の映像と一緒に使われることも多くなりましたが,これについては第8.1.5項で詳述します.
テレビ会議システムに用いられる映像機器は,第2.3.4項でも触れましたように,産業規模の点から,大量生産されているテレビ放送の機器を用いるのが得策です.テレビ放送は,20世紀末まではアナログの時代が続きました.そのときの映像フォーマットを図3-5に示します.世界は走査線数525本方式(フィールド周波数は60/1.001 = 59.94 Hz,525/60方式と表記)と625本方式(フィールド周波数は50 Hz,625/50方式と表記)に二分されています.底流となっているのは電源周波数です.フィールド周波数を電源周波数と合わせることにより,電源回路からの誘導(ハム雑音と呼ばれる)で画面が揺らぐ妨害を減らすことが出来ます.表示デバイスがCRTの場合,フィールド周波数がフリッカーとして眼に見えることがあります.人間の眼は,フィールド周波数が低いほど,また画面が明るいほどこのフリッカーを感じますので,525/60方式の方が画面を明るくできます.一方,625/50方式はその点で劣りますが,走査線数は2割多いので,画面は精細になります.日本から欧州に旅すると,画像が暗いけれども精細に見えました.
世界のアナログテレビ放送は,走査線数525本,フィールド周波数60 Hzの525/60方式と,走査線数625本,フィールド周波数50 Hzの625/50方式に二分されています.カラーテレビ放送のための色信号多重の仕方は,525/60方式ではNTSC,625/50方式では国によりPALとSECAMに分かれます.
アナログ放送テレビジョン方式はSDTV(Standard Definition TeleVision,標準解像度テレビ)とも呼ばれます.ITU-R BT.1700[3-5]に記述されています.20世紀にはこれが「標準」だったのですが,現在ではテレビ放送はディジタル化しHDTV(High Definition TeleVision,高精細テレビ)が普通になっているので,こちらの方がむしろ「標準」と呼ぶにふさわしくなっています.SDTV,HDTVは,映像の精細度の違いを表す用語として受け止めて下さい.ITU-R (International Telecommunication Union Radiocommunication Sector)は無線分野の国際標準化機関です.
ディジタルテレビジョン方式の映像フォーマットは,SDTVがITU-R BT.601[3-6]で,HDTVがITU-R BT.709[3-7]で定義されていて,そのパラメータ値を図3-6に示します.なお,垂直画素数は,符号化に都合のよいように,有効走査線数に近い8の倍数が選ばれています.
SDTVの場合,アナログ525/60方式由来と625/50方式由来のパラメータがあります.HDTVの場合,画面横方向の画素数は1920,縦方向の画素数は1080と万国共通ですが,フレーム(あるいはフィールド)周波数は地域対応の値が採用されます.
図3-6のHDTVに720P方式(走査線数は750本)を示していますが,これはITU-R BT.709には定義されていません.しかし,日本の電波法施行規則[3-8]では高精細度テレビジョン放送として認められていますし,テレビ会議システムでも使われていますので,この図に加えました.
SDTVあるいはHDTVカメラからの映像信号はテレビ会議端末の中の映像codecで帯域圧縮符号化が施され,ディジタル信号として相手端末に送り出され,また受信したディジタル信号は復号の後,非圧縮映像信号としてディスプレイに送られます.映像の圧縮符号化は,使用するネットワーク帯域を支配しますので,テレビ会議システムにとっては核となる要素で,1960年代より圧縮率の向上を目指した研究開発が続けられ,標準化活動も1980年代初めより活発に行われてきています.