VTVジャパン テレビ会議教科書

テレビ会議教科書 VTVジャパン株式会社

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10.3 新技術(新標準)の採り入れ方,移行方法

 前節で標準化には技術を固定化するという副作用のあることを述べました.技術は絶え間なく進化して行きますので,それを標準に反映することは勿論ですが,製品やサービスの利用者に負担をかけることなく新しい技術とその標準を採り入れてゆくシステム的な対策が必要です[10-8].
 放送に代表される片方向通信のシステムとテレビ会議に代表される双方向通信のシステムでは,難しさが異なります.

1) 片方向通信システムの場合

 我が国では1953年2月にアナログテレビ放送が開始され,2011年7月(東北3県は2012年3月)の停波まで続きました.一方地上ディジタルテレビ放送は2003年12月に放送を開始し,8年余りの過渡期を経て,テレビ放送は完全にアナログ方式からディジタル方式に移行しました.この例を参考に,現行の方式から新たな方式に移行する方法(図10-7)を説明します.ここでAはアナログ・テレビ放送方式に,Bはディジタル・テレビ放送方式に相当します.

図10-7 片方向チャネルのシステムにおける技術進歩の反映方法
図10-7 片方向チャネルのシステムにおける技術進歩の反映方法

現行のA方式から新技術を採り入れたB方式に移行する方法を示しています.サイマルキャスト方式では,送信側が両方式のストリームを出し,いずれ受信側にB方式が行き渡ることで移行します.ゲートウェイ方式では,送信側は新方式に移行し,A方式受信機が残る間,方式変換のゲートウェイを設けて対応します.切替型受信機方式では,受信機が両方式をサポートすることでシステム全体がB方式に移行することを実現します.

サイマルキャスト方式

 送信側はA,Bの両方式で送出し,受信側は自らの能力に応じてA,Bいずれかを選びます.アナログ・テレビ放送方式からディジタル・テレビ放送方式に移行する期間は,同一の番組をアナログ,ディジタル両方の方式で送信し(サイマルキャストという),アナログ受像機でもディジタル受像機でも受信できるようにしました.移行期間の間は電波資源を二重に使っていることになりますが,受信機の更新が終われば,新たなB方式でのみの送信(すなわちアナログ電波の停波)に変わります.

ゲートウェイ方式

 送信側は新たなB方式のみの送信とします.旧来のA方式受信機に対しては,B方式からA方式に変換するゲートウェイを設け,A方式,B方式いずれの受信機でも番組の受信を可能にします.デジタル放送への移行が終わった後にも,アナログ受像機の利用者を救済するため,ケーブルテレビ会社ではデジアナ変換(ディジタルテレビ信号を受けてアナログテレビ信号へ変換する)と呼ばれるゲートウェイを設けています.

スイッチャブル方式

 サイマルキャスト方式の送受信が入れ替わった方式です.受信側はA方式でもB方式でも受信可能とし,送信側はいずれかで送信する方式です.時代とともに,B方式のみの送受信に移行します.市販テレビ受像機の多くは,いろんな環境下でのテレビ受信を可能にするため,アナログ・テレビ,ディジタル・テレビ両方の受信機能を搭載しています.

2) 双方向通信システムの場合

 テレビ会議システムなど,双方向チャネルがあるシステムの場合は,上記のゲートウェイ方式,スイッチャブル方式の利用に加え,通信の最初に送受信機間で能力(サポートしている技術)を交換して最適な通信方法を折衝するネゴシエーション方式を用いることができます.能力交換の原理を図10-8に示します.

図10-8 能力交換・通信モード決定の原理
図10-8 能力交換・通信モード決定の原理

まずメディアストリームの受信側から受信能力を提示します.次に,メディアストリームの送信側では,相手の受信能力と自らの送信能力を比べて最善の送信モードを決定し,受信側にそれを伝えます.その後で,メディア情報が流されます.双方で新世代符号化などの能力を共有していれば,それが起動されます.

 まず,受信側が受信能力(例えばサポートしている符号化標準)を送信側に提示し,送信側では自らの送信能力と見比べて最良の通信モードを選び,その通信モードでストリームを送信することになります.
 これにより,受信側が新たなB方式をサポートし始めると共に,送信側がA方式のみのサポートであればシステムはA方式で動作し,送信側がB方式もサポートしていればシステムはB方式で動作することになります.
 システムの規定が,A方式のサポートは必須で,B方式,C方式,・・・がオプションとしておけば,どんな場合でも少なくともA方式での動作が保証され,互換性が保たれます.時代とともに,旧来の方式を搭載していてもそれが起動されることはない,という資源的な無駄を生じますが,技術進歩に追随した連続的なシステム更改が可能になります.
 この通信制御を担っているプロトコルは,ファクシミリではT.30 [10-9]であり,テレビ会議ではH.245 [10-10]です.

3) ダウンロードによるシステム更改

 これも双方向通信チャネルが存在する場合ですが,映像符号化,復号がソフトウェアだけで行われる場合,新たなバージョンをネットワーク経由で配布し,システムを更改することができます.インターネットの世界では,ブラウザを始め,このような方法で頻繁に最新技術を導入しています.