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9.10 ディレクトリー・サービス

 ディレクトリー・サービスとは「コンピュータ・ネットワーク上のさまざまなリソースの所在や属性に関する情報を記憶し、提供するシステムのこと」とされています[9-90].テレビ会議システムのディレクトリー・サービスは,2002年10月,North Carolina大学によりITU-Tに提案されました.このための寄書[9-91]はCisco社が提出元になっていますが,その時点ではNorth Carolina大学はITU-Tのメンバーになっていなかった事情によります.North Carolina大学はInternet2のVideo Development Initiative (ViDe)に加わって,各地の大学を結ぶ大規模なテレビ会議システムを運用した経験があり,それに基づいてこの提案を行いました.
 標準化作業の結果,2003年8月,H.350を始めとする6勧告が成立し,その後3勧告が追加されています.これらは次の通りです.

H.350[9-92] テレビ会議システム用ディレクトリー・サービスの枠組み
H.350.1[9-93] H.323システム用ディレクトリー・サービス
H.350.2[9-94] H.235システム用ディレクトリー・サービス
H.350.3[9-95] H.320システム用ディレクトリー・サービス
H.350.4[9-96] SIPシステム用ディレクトリー・サービス
H.350.5[9-97] 非標準プロトコル用ディレクトリー・サービス
H.350.6[9-98] 呼の自動転送と選択着信のディレクトリー・サービス
H.350.7[9-99] XMPP用ディレクトリー・サービス
H.351[9-100] マルチメディア端末とシステムのディレクトリー用セマンティックwebインタフェース

 H.350.xシリーズはネットワーク上の端末とその利用者を結びつけるLDAP (Lightweight Directory Access Protocol)[101]およびX.500[9-102]スキーマ(データベース構造)を記述しています.H.350はシリーズの枠組みを記述し,H.350.1-4,6,7はH.323, H.320など特定のプロトコルに関わるオブジェクトを定義しています.H.350.5は非標準プロトコルのオブジェクトを表現する方法を提供します.
 H.350シリーズの活用により,端末パラメータの自動設定,利用者情報と端末情報の対応付け,ホワイトページ(電話帳),通信相手のクリックダイヤル,信頼できるデータベースに基づく利用者認証などが可能になります.
 企業や大学など大規模な組織では,職員の情報,通信機器の情報など,多様な情報がデータベース化されています.H.350はテレビ会議システムに関わるデータベースの定義とこれら既存のデータベースとの連携を意図しています.
 具体的には,H.350では,テレビ会議装置やIP電話など通信端末の情報を保持する汎用的なスーパークラスcomObjectを定義し,そのサブクラスとして特定のプロトコルに関する情報(例えばH.323システムのためのh323Identity)を定義します.これらが利用者に関する情報と結びつけば,社員の名前からH.323テレビ会議による連絡先を獲得できます.
 人に関する情報とH.323端末情報とを結びつける基礎的なディレクトリー・サービス例を図9-28に示します.Person Directoryは既存のディレクトリーですが,連携のためのcommURI要素(今の場合H.323端末情報の所在場所)が加えられます.commObject DirectoryはH.350で定義するH.323端末情報の入ったディレクトリーで,所属ゲートキーパ,H.323エイリアス,エンドポイントタイプ(端末/MCU/ゲートウェイの別)などが記述されます.
 ディレクトリー・サービスにはLDAPもしくはX.500のプロトコルでアクセスし,宛先,端末の設定情報,ゲートキーパ情報などを獲得します.

図9-28 ディレクトリーとその利用の例
図9-28 ディレクトリーとその利用の例

H.323テレビ会議システムのディレクトリーと企業内などの既存ディレクトリーを連携させる例です.両者を結びつけるのはcommURIです.これにより人の名前からH.323アドレスを獲得でき,それをクリックすることでH.323通信に進むなどのことができます.

 H.350シリーズには,LDAPでアクセスする際のLDIF (LDAP Data Interchange Format)[9-103]ファイルとX.500でアクセスする際のASN.1ファイルが付随しています.また,H.350実装の参考になる書籍[9-104]が出版されているほか,IETFではH.350に関するInformational RFCが発行されています[9-105].