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3.3.1 マルチポイントテレビ会議のシステム構成

 マルチポイントテレビ会議を実現する方法を図3-11に示します.会議参加拠点をn箇所とし,個々の拠点端末をA, B, ..., Nとします.原理的には,図3-11左側のメッシュ接続[3-18]により,n端末相互間にポイント・ツー・ポイントテレビ会議を用意すれば,全ての拠点を同時に見ながら会議ができます.もう一つの原理的に異なる方法は,図3-11右側のMCUを中心に各端末をスター接続[3-19]する方法です.MCUからの映像は,その瞬間に話している拠点の映像とする(video switching,切替表示と呼ぶ)か,MCUで合成した複数拠点の映像とする(continuous presence,同時表示と呼ぶ)かです.

図3-11 マルチポイントのテレビ会議接続方法
図3-11 マルチポイントのテレビ会議接続方法

原理的には,n端末相互間を全て結ぶメッシュ接続とMCUと各端末間を結ぶスター接続の二つがあります.メッシュ接続は全ての拠点を同時に見ることができる点で優れていますが,ディスプレイ台数,回線本数の双方で多量の資源を必要とします.後者は,端末からはMCUが一つの端末と同じように見えてマルチポイントのための端末側の追加は最小限で所要回線数も拠点数と同じですが,MCUによる集中処理に資源を要し,品質も限られます.

1) メッシュ接続

 利用者の立場では,他の参加拠点すべてを同時に見ることができ(continuous presence),直感的で自然なマルチポイント会議の実現方法です.しかし図3-11で明らかなように各拠点には(n-1)台のディスプレイ,マルチポイントテレビ会議システム全体ではn(n-1)台のディスプレイが必要です.また拠点当たり(n-1)本の回線を引き込まなければなりませんので,マルチポイントテレビ会議システム全体で必要な回線数は,nC2 = n(n-1)/2 本となります.nが大きくなるにつれ膨大な端末資源とネットワーク資源を要することになります.従って,次に説明するMCUを用いたスター接続のマルチポイントテレビ会議が現実的で,広く実用されています.

2) スター接続

 利用者に見える他拠点の映像は,MCUの設計に依存します.各拠点では,MCUで決めるか,各端末が要求するかして決めた1拠点の映像を表示する,もしくはMCUで合成した(n-1)拠点の映像を同時表示します.いずれの場合も,各端末のMCUへの接続は,ポイント・ツー・ポイントのテレビ会議時に相手端末へ接続するのと同じインタフェースになること,MCUへの接続回線数はn本であることが特徴です.
 品質の面では,1本の回線,1台のディスプレイを(n-1)拠点で共有することになりますので,video switching方式では表示拠点数が,continuous presence方式では各拠点の表示品質が限られます.
 video switchingの場合の各拠点への映像は,一般的には,現在発言中の拠点(current speaker)映像を他の拠点すべてに流し,発言中拠点にはその前に発言した拠点(previous speaker)の映像を流します.どの拠点映像を流すか,またcontinuous presenceの場合にどのように(n-1)拠点映像を合成して1映像とするかは,相互接続性には関わらないため標準では規定されずMCU設計の自由です.
 スター接続のマルチポイントテレビ会議では,各拠点の負担が増えない代わりにMCUに呼処理とメディア信号処理の資源が集中します.映像合成の場合には,圧縮符号化された各映像を復号処理し,合成した後再び圧縮符号化処理するというtranscodingが必要となりますので,映像品質劣化,遅延時間の増大を招きます.
 逆にMCUを用いることのメリットとして,異なる種類の端末間でマルチポイントテレビ会議を可能とする点が挙げられます.スター接続の各端末・MCU間接続は,MCUでの復号が入らない映像切替の場合を除き,そこで閉じた系となりますので,MCUに第9.8節で説明するゲートウェイの機能を持たせることにより,異種端末を収容することができます.

3) Vidyo社マルチポイント会議システム

 MCUの代わりにVidyoRouterと呼ばれるIPパケットのコピーと配信を行う装置を用い,SVC (Scalable Video Coding)と呼ばれる階層符号化を用いるのが特徴です[3-20].各端末はVidyoRouterにスター接続されますが,映像送受信の点ではメッシュ接続となっています.その原理を図3-12に示します.

図3-12 Vidyo社のマルチポイントテレビ会議システム
図3-12 Vidyo社のマルチポイントテレビ会議システム

VidyoRouterでは各端末からのメディアストリームをコピーし,他の端末全てに配信することで,メッシュ接続を実現します.VidyoRouterではメディア処理をしない代わりに,端末では受信ストリーム数だけの復号器と映像合成機能を配置します.従来のシステムではMCUで復号,再符号化を行うため端末・端末間では2回の符号化・復号が行われるのに対し,Vidyo社マルチポイントテレビ会議システムでは1回ですますことにより,映像品質劣化,遅延増加を避けることができます.

 図3-12左側には,ユーザ1とユーザ2からの圧縮符号化映像が共にVidyoRouter経由でユーザ3に届き,そこで2台のデコーダによりそれぞれ復号された後,映像合成されて表示される様子を示しています.VidyoRouterではパケットを転送するだけですので,図3-12右側の従来システムと比べ再符号化は必要ありません.図3-12では原理を示すため省略されていますが,実際にはユーザ1からのメディアストリームはユーザ2にも配信され,ユーザ2からのストリームはユーザ1にも配信されますし,ユーザ3からのストリームはVidyoRouterでコピーのうえユーザ1とユーザ2に配信されます.こうすることにより,MCUで生じていた復号,再符号化に起因する品質劣化と遅延の増加を避けることができます.
 復号,映像合成,再符号化の処理資源に着目すると,従来システムではMCUに集中した配置であったのに対し,Vidyo社システムでは端末に分散配置されています.
 SVCの原理を図3-13に示します.符号化に際し,出力ストリームを複数用意し,受信するストリームの数(ビットレート)に応じた品質の映像を再現します.例えば,3ストリームの階層符号化を行った場合,ストリーム1だけ受信すれば低解像度映像が得られ,ストリーム1と2を受信すれば中解像度映像が,ストリーム1,2,3の全てを受信すれば高解像度映像が得られます.
 各端末では回線帯域に応じ,VidyoRouterに必要な階層数を伝えることで,帯域にあったストリームを受信できます.

図3-13 SVCの原理
図3-13 SVCの原理

送信側では,映像を目的の品質に応じて階層的に符号化し複数ストリームに分けて送出します.受信側では,ネットワーク帯域や端末能力に応じ必要なだけのストリームを受信してそれに見合った品質の映像を再現します.この例では空間解像度(画面当たりの画素数)を階層化していますが,時間解像度(毎秒フレーム数)や符号化雑音も階層化の対象です.

4) Cisco社video simulcasting

 Cisco社では,MCUでのトランスコーディングを不要とするメッシュ接続のマルチポイントテレビ会議システム方式としてvideo simulcasting(あるいはstream switching)方式を提案しています[3-21].その構成を図3-14に示します.

図3-14 Cisco社のVideo Simulcastingマルチポイントテレビ会議システム
図3-14 Cisco社のVideo Simulcastingマルチポイントテレビ会議システム

各端末は品質の異なる複数本のストリームを同時にSwitchに送り,Switchでは残りの端末の各々に最適な品質のストリーム1本を選び配信します.論理的にはメッシュ接続のマルチポイントテレビ会議システムが実現できます.Switchはストリームのコピーと配信をするだけなので,品質劣化や遅延増加は発生しません.

 各拠点からは,複数のストリームを同時に送り出します.このとき使用する符号化はSVCには限られず,単一符号化でもかまいません.図3-14では拠点Aの高解像度端末からは高,中,低解像度の3ストリームがSwitchに送られます.拠点Bは中解像度端末なので中,低解像度の2ストリームを,拠点Cは低解像度端末なので低解像度ストリームのみを送り出します.Switchでは拠点の能力に応じ,必要なストリームをコピーのうえ,配信します.拠点Aには拠点Bからの中解像度ストリームと拠点Cからの低解像度ストリームが届き,拠点Bには拠点Aからの中解像度ストリームと拠点Cからの低解像度ストリームが届きます.拠点Cには拠点A,Bからの低解像度ストリームが届きます.このようにして,論理的にはメッシュ接続を実現し,Switchではメディア処理は不要で,トランスコーディングに起因する映像品質劣化や遅延の増大は発生しません.
 この方式では,各ストリームの符号化は独立に選ぶことができ,極端には低解像度映像ストリームにはMPEG-4を, 中解像度映像ストリームにはH.264を, 高解像度映像ストリームにはH.265を適用することもできます.