VTVジャパン テレビ会議教科書

テレビ会議教科書 VTVジャパン株式会社

9.8 異種端末間通信

 これまで,テレビ会議やテレビ電話のオーディオビジュアル通信を実現するシステムとして,主にISDNの上のH.320システム,IP網の上のH.323システムとSIPシステムのプロトコル構成や要素技術を説明してきました.一般に準拠するシステム標準が異なれば,直接の相互通信はできません.同じシステムであっても世代が違えばつながらないこともあります.しかし利用者から見ると,いずれの端末もカメラやディスプレイ,マイクロホンやスピーカを搭載していて,よく似ています.相互につながらない,というのは受け入れ難いことです.技術的には構成要素が一箇所でも違っていれば接続性は失われてしまいます.
 この問題に対処する現実的な方法は,次のいずれかです.

  • プロトコル変換ゲートウェイによる通信
  • プロトコル切り替え形端末による通信
  • 最低限(例えば音声のみ)の通信

1) プロトコル変換ゲートウェイによる通信

 日本人が外国人と会話する場合,相互に共通の言語が使用できなければ,通訳を介して行います.これと同じように,異種システム間の通信は,プロトコルを変換するゲートウェイを介して行うのが,確実な方法です.ただし,人間の通訳と同様,ゲートウェイは高価なものですから,できれば避けたいソリューションということになります.
 一例としてH.320端末とH.323端末のゲートウェイ経由相互接続を図9-22に示します.ゲートウェイはそれぞれのプロトコルを終端したうえ,さらにプロトコルを変換しなければなりません.この図ではプロトコルを色分けしていますが,結局ゲートウェイには2台の端末分の資源とプロトコル変換の資源が必要になります.左側のH.320端末からはゲートウェイは別のH.320端末に見え,右側のH.323端末からも同様にゲートウェイは別のH.323端末に見えます.

図9-22 プロトコル変換を行うゲートウェイ
図9-22 プロトコル変換を行うゲートウェイ

二つの異なるシステムの端末間にゲートウェイが介在し,プロトコル変換を行って相互通信を実現します.双方の端末は,それぞれ自らと同じ種類の端末と通信しているように動作します.

 プロトコルスタックで表現したゲートウェイを図9-23に示します.音声,映像のメディア情報はゲートウェイで元のアナログもしくはPCM信号に戻され,再度もう一方のプロトコルに従い符号化されます.通信制御メッセージも同様で,例えばH.320端末のH.242プロトコルBAS符号は,H.323端末H.245メッセージに変換されます.

図9-23 H.320/H.323ゲートウェイ
図9-23 H.320/H.323ゲートウェイ

ゲートウェイはH.320とH.323のプロトコルスタックを搭載し,かつプロトコル変換の機能を必要とします.

 ゲートウェイのメディア符号化部分は,トランスコーディング(Transcoding)と呼ばれます.その構成を図9-24 a)に示します.この例ではH.263とH.264映像符号化の変換が行われています.どのような符号化の組み合わせであれ,トランスコーディングでは受信した符号化ストリームは一旦復号してアナログもしくはPCMに戻し,これを再度符号化することになりますので,b)に示した直接接続の場合に比べ,映像品質が劣化すると共に,符号化処理に伴う遅延時間が増加します.

図9-24 ゲートウェイにおける符号化変換(Transcoding)
図9-24 ゲートウェイにおける符号化変換(Transcoding)

ゲートウェイでプロトコル変換する際に,特に問題となるのは,メディアを復号し再度符号化することに伴う品質劣化と遅延時間の増加です.リアルタイム双方向通信であるテレビ会議にとって,特に遅延時間の増加は,できれば避けたいことです.

 ゲートウェイのソリューションは,上記の難点はありますが,システム構成の自由度の点では優れています.極端にはどのような種類の端末間であれ,通信は可能になります.マルチポイントのためのMCUでは,たとえ同種端末による通信であっても,ゲートウェイ機能を介して接続しています.MCUを利用することで多様な端末間のマルチポイント通信を実現できます.
 ITU-Tでは,異なるシステム間のゲートウェイによる相互通信を,H.246[9-59]で規定しています.

2) プロトコル切り替え形端末による通信

 再び日本人が外国人と会話する場合,日本人が日本語と相手外国人の言語を使うことができれば,それを使って目的を達することができます.同様にテレビ会議端末が複数のプロトコルを搭載していれば,相手に応じて切り替えることにより直接の通信が可能になります.図9-25にH.320とH.323複合端末の例を示します.複合端末は,相手がH.320端末であればH.320端末として,相手がH.323端末であればH.323端末として動作します.ゲートウェイ経由の場合のようにプロトコル変換を介することなく通信できます.最近のテレビ会議端末の多くはH.323端末,SIP端末の複合形で実装されています.

図9-25 プロトコル切り替え形端末
図9-25 プロトコル切り替え形端末

端末が複数のプロトコルを実装し,相手に応じて切り替えれば直接の接続が可能になります.H.320/H.323複合端末の場合,ネットワーク・インタフェースから二重に持たなくてはなりませんが,H.323/SIP複合端末の場合,通信制御ソフトウェアの追加ですみ,実装が容易になります.

3) 最低限(例えば音声のみ)の通信

 日本人が外国人と会話する場合のアナロジーで言いますと,身振り手振りで意思を伝えることに相当します.片方が広帯域ネットワークに接続されたH.323端末,もう一方が低ビットレートのモバイル端末であったような場合,映像の相互接続は諦め,音声だけでの通信にフォールバックする場合です.