VTVジャパン テレビ会議教科書

テレビ会議教科書 VTVジャパン株式会社

2.3.8 ISDNテレビ会議

 ISDN[2-44]とはIntegrated Services Digital Networkの頭文字を取った用語で,日本語ではサービス総合ディジタル通信網と呼ばれています.旧来のアナログ電話網は,アナログ300〜3400 Hz帯域の回線交換網であるのに対し,ISDNは64 kbit/sを基本とするディジタル回線交換網です.ISDNに英語ではintegrated,日本語では総合の文字が入っているのは,一旦ディジタル化されれば,もとの情報が音声であろうが映像であろうが,ネットワークとしては中味を問う必要はない,という意味です.従って1本の回線で多様なサービスを運ぶことができます.
第2.3節冒頭に触れましたように,ネットワークの内部は早くから(1960年代初めから)ディジタル伝送が取り入れられ,急速に浸透してゆきました.最初のディジタル伝送方式は,米国のT-1方式で1962年に,日本ではPCM-24方式として1965年に実用化されました.この方式では,2本の電話線を通じ片方向に1.5 Mbit/sのディジタル信号を伝送します.電話では24チャネルが同時に送れる容量です.その後,同軸ケーブルや光ファイバケーブルによる100 Mbit/s,400 Mbit/sの高速伝送方式が次々と開発,導入されて行きます.1987年には光ファイバによる1.6 Gbit/s伝送方式が導入されています[2-45].
 残る加入者線部分(電話加入者から最寄りの電話局まで)についてもディジタル伝送の研究が進められ,1980年代初めには1本の電話線で双方向に144 kbit/sのディジタル信号を送受できる方式(ピンポン伝送方式と呼ばれる)や,光ファイバを用いた1.5 Mbit/sのディジタル伝送方式が開発され,端末・端末間でディジタル信号の回線交換を行う通信網の構築が可能になってきました.
 CCITT(現在はITU-T)では1980年代初めよりISDNの標準化を進め,一大プロジェクトとなりました.その結果,1984年10月を皮切りに,一般原則を記述したI.120[2-46]ほか,下記のIシリーズ勧告の体系ができあがって行きます.

I-200シリーズ -- ISDNのサービス(ベアラサービス,テレサービスほか)
I-300シリーズ -- ネットワークの側面(機能原則,番号計画,コネクション種別ほか)
I-400シリーズ -- ユーザ・網インタフェース(物理的条件,呼接続プロトコルほか)
I-500シリーズ -- ネットワーク間インタフェース(サービス相互接続,ISDN間接続,ISDNと非ISDN間接続ほか)
I-600シリーズ -- 保守原則

 これを受け,NTTではINSネット64,INSネット1500と呼ばれるISDNサービスを1988年4月19日開始します.前者は銅線による64 kbit/sチャネルを2本提供するサービス,後者は光ファイバーによる1.536 Mbit/sチャネルを1本,あるいは384 kbit/sチャネルを4本,あるいは64 kbit/sを23本もしくは24本提供するサービスです(INSネット1500サービスは2014年現在64 kbit/sチャネル提供のみとなっています).
 一方,CCITT(1993年3月からITU-T)におけるISDN利用テレビ会議システムの標準化は1985年から活発に展開されました.まず核となる映像符号化について,世界的な協力により,1次群(1.5あるいは2 Mbit/s)以下の低ビットレート映像符号化を標準化するためのビデオ符号化専門家グループが設立され,筆者はその議長を務めました.成果はpx64 kbit/s codecと呼ばれるH.261[2-47]として1990年12月に勧告化されました.また同時期にマルチメディア多重化に関するH.221[2-48],能力交換など通信制御プロトコルを定めたH.242[2-49],端末・端末間C&I (Control and Indication)コードに関するH.230[2-50]の要素技術標準と,これらの相互関係を含めトータルシステムを規定した標準H.320[2-51]が策定されました.筆者はこのH.320についても課題責任者として成立に貢献しましたが,テレビ会議・テレビ電話のトータルシステムを記述することで,H.320はその後の多様なシステム規定のベースとなりました.
 これら,ネットワーク側ならびに端末側双方の標準化努力によりISDNによるディジタルテレビ会議の環境が整いました.産業界では,各社で相互接続可能なシステムが商品化されてゆきます.
 ISDNのもう一つのインパクトは,64 kbit/sチャネル(Bチャネル)の料金は電話と同等に設定されたことから,テレビ電話に新たな可能性が生まれると期待されたことです.特に銅線による2Bテレビ電話が着目されました.一例を図2-13に示します.ネットワークの違いがテレビ電話の成否を決める要素ではないのですが,新たなネットワーク登場の度にテレビ電話への期待が高まったのです.

図2-14 ISDNテレビ電話
図2-14 ISDNテレビ電話

ISDNは電話と同等の料金で64 kbit/sチャネルが提供されたことから,1990年代,ISDN利用テレビ電話機が販売されました.この写真は2000年に筆者が,大学生で札幌在住だった次女と話している様子です.