2.3.9 専用会議室から可動形,デスクトップ形へ
テレビ会議システムは1970年代初めより,ビジネスに活用されています.最初は図2-10に示したような端末装置と会議室が一体になった設計でした.技術的な制約がその大きな理由です.
映像系については,撮像デバイスの性能が十分ではなく照明環境を整えなければならなかったこと,表示デバイスはCRT(Cathode-Ray Tube,ブラウン管)で大型画面にしようとすると容積も重量も大きくなって容易には動かせないこと,という問題がありました.
映像系以上に音声系については,マイクロフォンとスピーカを用いることに起因する本質的問題がありました.テレビ電話では,通信の参加者が原則一人であるため,ハンドセットの利用が許容されます.しかし,テレビ会議では通常複数の参加者がありますので,通信相手からの音はスピーカで流します.するとスピーカからの音がマイクで拾われ,相手に戻って音のループを生じます.一巡する間に音が減衰していれば良いのですが,そうでなければハウリング(howling)とかシンギング(singing)と呼ばれる騒音を生じます.これを避けるには一巡の利得を下げなければなりません.スピーカから出た音が室内で反射してマイクロホンに戻らないように,壁や床に吸音の処置が必要になります.さもなければ,スピーカから出る音の大きさを下げることをしなければなりませんが,それは聞き難くなることとの引き替えです.
信号処理でこの問題を解決する方法(第3.2.1項で説明)もありますが,1970年代初めでは,話していないと思われる方向に大きな減衰を入れる,極端には遮断するエコーサプレッサしかありませんでした.そのうえ,当時のエコーサプレッサには,話し声の冒頭が途切れる話頭切断の欠点がありました.
すなわち,快適なテレビ会議を実施するためには,音声系,映像系に細心の注意を払った環境が必要だったことと,端末装置が大がかりであったことが,専用会議室のシステムとなった理由です.
テレビ会議の利用者からすると,装置が手近にあって,いつも使っている会議室でテレビ会議をしたい,というのが自然な要望です.1990年代には,固体撮像デバイスや液晶ディスプレイが使えるようになり,音響エコーキャンセラも実用的となりました.電子回路はLSI化しあるいは汎用のプロセッサが利用可能にって装置が小形化します.これらを利用して,普通の会議室に設置するテレビ会議端末(図2-15),あるいはオフィスの隅などに置くテレビ会議端末(図2-16)が開発されました.これらは,移動可能という意味でロールアバウト(roll-about)形,あるいはディスプレイの上にテレビ会議に必要な装置を乗せるという意味でセットトップ(set-top)形と呼ばれます.
端末装置の小形化とともに,デバイスと信号処理技術の進展により設置環境の自由度が拡大して,普通の会議室にテレビ会議端末を設置することができるようになりました.
さらに端末装置を小形化し机の上に置いて使えるようにしたのが図2-17に示すデスクトップ(desk-top)形です.これは一人もしくはごく少人数での使用を想定した端末装置で,外見的にはテレビ電話と変わることはありません.
ここではテレビ会議端末小形化の動きを説明しましたが,どれかが支配的ということではなく,どのようなテレビ会議を行うかに応じて端末の形が選択されています.