コラム4-1 残響時間の長い部屋に吸音材を運び込むと
筆者がNTT研究所で属していたプロジェクトでは,1970年代後半にテレビ会議が普及するためには,どこの部屋にでも設置できるように,第2.3.9項で述べた「可動形(roll-about type)」のテレビ会議端末が必要と考え,プロトタイプを作って試していました.ちょうど研究所間を結ぶテレビ会議システムでテレビ会議室増設の計画があり,1980年に横須賀研究所内にそのような端末を設置することになりました.
この建物は,多様な使い方ができるよう,鉄のパーティション壁で自由に部屋を区切れる構造になっていて,その一部屋にテレビ会議端末を設置することになったのです.部屋の形が直方体で,壁も床も滑らかな表面であったことから,手を叩くと鳴き竜を生じる非常にliveな音響環境でした.
そこで,吸音材を取り付けることになったのですが,鉄板の壁であることを活用し,磁石で吸音板を貼り付ける構造[4-24]としました.
空っぽの部屋にこの吸音板が搬入されたときの経験は印象的でした.吸音板は未だ壁に取り付けたわけではなく,単に床に積み上げただけだったのですが,その途端に部屋が静まりdeadな音響環境が実現したのです.式4-4,式4-5で示される吸音効果を体感することができました.
端末装置と部屋の様子を図C4-1に示します.壁に黒く写っているのが磁石で取り付けた吸音板です.