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 テレビ会議と言えば,映像の方に目が行きがちです.しかし音が良くなければ文字通り「話しにならない」ことになります.話し易く聞き易いことが求められます.音の良し悪しには,帯域幅や符号化雑音など音質に関わるパラメータの他,部屋の音響環境が影響します.この節では,音響環境を構成する外からの騒音,残響時間,外への遮音を解説します.併せて,必要な音量,マイクロホンやスピーカの設置位置についても触れます.
 一般的に,テレビ会議に適する部屋には次のような特性が望まれます[4-3][4-7].

  • 大きすぎる部屋,騒音の多い部屋,残響の大きい部屋は避ける.

  • 部屋の形は,直方体だと壁と壁の間の反射がflutter(手を叩くと何重にも響く鳴き竜現象)を引き起こすので,音響的には,不規則な形がよい.コンサートホールのように,中に不規則なオブジェを置くことで対処してもよい.

  • 外界から騒音が入って来ない,部屋の中の声が外に出て行かないよう,遮音されている.

  • 絨毯やカーテンで部屋の表面が覆われていて(吸音効果のため),残響が抑えられている.

1) 外からの騒音

 人間の耳に感じる音の大きさ(ラウドネス)は,物理的な音の強さである音圧が同じであっても,音圧の程度と周波数によって変わります.この特性は,実験結果に基づきISO 226[4-8]で標準化されていて,図4-1に示す通りです.ここで基準となる1 kHz純音の大きさ0 phon(0 dB,読みデシベル)は物理的には20 μPaの音圧です.

 

図4-1 等ラウドネス曲線

1 kHzの純音に対し,周波数を変えた純音がそれと同じ大きさ(ラウドネス)に聞こえる音の音圧をプロットした曲線です.人間の耳は2〜4 kHzの音に感度が高く,それより低い周波数,高い周波数では感度が落ちて行きます.この曲線は国際標準ISO 226で規定されています.人間は加齢と共に特に高い周波数が聞こえにくくなっていきます.

 

 騒音は,会議室の外から侵入する街の音,会議室の空調音など,会議で発言する人の声を除いた全ての音です.騒音は騒音計[4-7]で測られます.人間の耳に感じる騒音の周波数特性で重み付け(A-weighting,図4-2)した音圧レベルで表されます.単位はdBAです.騒音レベルを体感的に把握するために騒音源の例を図4-3に示します.

 

図4-2 騒音計の重み付けフィルタ特性

騒音計には3種類の重み付けフィルタが装備されていますが,騒音レベルはA特性の重み付けを用いて測定されます.このA特性は図4-1の等ラウドネス曲線の小さな音に対する人間の感じ方を反映していて,体感的な騒音レベルをdBで表現します.物理量である音圧に着目する場合はZ特性を用いれば測ることができます.

図4-3 騒音レベルと騒音例

身の回りの環境とその中で聞こえる騒音例とそのレベルを示しています.聞こえるか聞こえないかの10 dBAから耳が痛くて耐えられないようような120 dBAまで,人間の耳は100 dBを超えるダイナミックレンジを有しています.因みに16ビットで表される最小値1と最大値65,535の比は96 dBです.

 

 会議室で話す場合,参加人数が増えれば人と人との距離が増すので,その場合に聞こえてくる話し声(信号レベル,S)と騒音(雑音レベル,N)の比SNR (Signal to Noise Ratio,単位はdBで大きな値ほど話し声はきれいにきこえる)は下がってきます.
 会議室の大きさと騒音レベルの上限値を図4-4に示します[4-4].テレビ会議端末を設置する予定の部屋がこの条件を満たさない場合は,部屋を変える,防音対策を施す,マイクロホンまでの距離を縮める,などの実行が必要になります.
 話者とマイクロホン間最大距離のガイドラインを図4-5に示します[4-7].騒音に対するSNRは,10dBが許容限度値として点線で,20dBが何とか許容される値として実線で表されています.このグラフからも,SNRを高くしようとすると話者とマイクロホン間距離を縮めなければならないことが分かります.この距離を半分にすればSNRは6dB向上します.図4-5は無指向性マイクロホンを使用する場合で,指向性マイクロホンでは最大距離は50%増加します.
 マイクロホンを話者に近づける場合の問題は,1本のマイクロホンで集音できる会議参加者数が減り,マイクロホンの本数を増やさなければならなくなって,集音される騒音が増えることです.目安は本数が2倍になる毎に3dBの雑音増となります[4-7].

 

図4-4 会議室の騒音レベル上限値

会議室が大人数用になるほど部屋は大きくなり,話者と聴者の最大距離は大きくなって,話者の声が小さくなりますので騒音(環境雑音)も小さくなければなりません.その目安を示しています.

図4-5 騒音に対する話者・マイクロホン間距離の許容限界

マイクロホンで集音された話し声が相手会議室で快適に聞こえるためには,20 dB以上のSNRを確保する必要があります.そのためには与えられた騒音レベルに対し,このグラフの左下領域に入るような話者・マイクロホン間距離を選びます.

 

2) 残響時間

 会議室で話す場面を想定します.部屋によっては声が壁や床から反射して響きます.この現象は残響(英語ではreverberation)という現象で,音源からの音が止まって残響が60dBまで減衰する時間を残響時間(Reverberation Time, RT)と呼びます.話し相手の人には直接耳に達する直接音のほかに,残響音も届きます.もし残響時間が長く残響音が耳に聞こえるようになれば,会話は聞きづらいことになり,極端には樽の底から声が聞こえてくるような,あるいはトンネルの中にいるような状態になります.このような音響空間はliveだと言い,逆に残響のない,例えば広い海に向かって声を出すような場合の音響空間はdeadだと言います.極端にdeadな音響実験室は無響室,極端にliveな音響実験室は有響室と呼ばれます.
 テレビ会議ではあまりliveな環境では音質が下がりますし,deadな会議室ではマイクロホンの集音には都合が良いのですが,話者の耳に戻ってくる音がなくなり,反射的に大きな声で話すようになって疲れます.
 テレビ会議室の推奨残響時間は,0.3〜0.4秒[4-5]です.別の資料[4-3]では0.3〜0.6秒を推奨しています.いずれにしても,テレビ会議にとって0.3秒未満ではdead過ぎる,0.6秒超えではlive過ぎるということになります.
 テレビ会議端末を設置する部屋は,残響時間が長く上記の推奨残響時間を満たさない場合もあり得ます.その場合,マイクロホンを口に近づけるか,部屋に吸音処理するかして,解決します.
 マイクロホンで集音される音は,目的とする話者の声(信号)に部屋の残響(雑音)が加わります.信号対雑音比はマイクロホンに近づいて話すほど上がり,明瞭な音として再現されます.ここで部屋の音響環境を表すパラメータとして臨界距離(critical distance)Dcを導入します.臨界距離Dcはマイクロホンで直接集音される音と部屋の残響音の音圧が等しくなる距離と定義され,良好な音質を得るためには,話者とマイクロホン間の距離は0.5Dc以下が推奨されます.これは無指向性マイクロホンの場合で,指向性マイクロホンの場合は0.75Dcまで広げられます[4-10].

 

図4-6 部屋の表面積,平均吸音率と臨界距離の関係

直接音と残響音のレベルが等しくなる臨界距離は,部屋の表面積と平均吸音率に依存します.話者・マイクロホン間距離が臨界距離の1/2以下となるようマイクロホンの設置位置を決めます.

 

 臨界距離Dcと部屋の音響特性(表面積Sと平均吸音率αa)の間には次の関係があり,これを図4-6に示します[4-10].

  Dc = (0.02R)**(1/2)                 (式4-1)
  ここでR = αa*S/(1 - αa)               (式4-2)

 また,臨界距離Dcと残響時間RTとの間には,部屋の容積をVとしたとき,次の関係があります[4-7].

  Dc = 0.056*(V/RT)**(1/2)               (式4-3)

 式(4-1)と式(4-3)からDcを消去すると,Sabine(セービンあるいはサビーネ)方程式と呼ばれる次の関係式が得られます.

  RT = 0.162*V/(αa*S)                 (式4-4)

 平均吸音率は,部屋の表面全てについて素材の吸音率αとその面積sを掛けた吸音単位の総和を全表面積で割った値です.すなわち,

  αa = (Σα*s)/S                    (式4-5)

 また,代表的建材の吸音率を図4-7にしまします.ここで吸音率とは,音が壁などの面にあたったとき,一部は反射され,一部は吸収され,一部は透過しますが,吸収+透過の比率と定義されます.

図4-7 素材と吸音率の例

いくつかの素材について,吸音率を示しています.部屋の平均吸音率は,素材の吸音率とその面積の積和を全表面積で割って得られます.会議に参加する人や椅子などの家具も吸音に寄与しますので,その吸音効果を平均吸音率の計算に加えます.

 

 具体例として,幅4.1 m,奥行き6.5 m,高さ2.4 mのテレビ会議室(定員9人)を取り上げます.総表面積Sは104 m2,容積は64 m3で,引き渡されたばかりの部屋で吸音率0.1の木板,合板(図4-7)などが覆われているとすると,この会議室の平均吸音率αaは0.1,従って図4-6から臨界距離Dcは50 cm,話者・マイクロホン間距離は25 cmとなって会議参加者一人一人の口元にマイクロホンを設ける必要が生じます.このとき式4-4から残響時間は1秒となり,この点でもテレビ会議には適さないことがわかります.
 図4-6から平均吸音率αaを0.4にできれば,臨界距離Dcは120 cmに伸び,話者・マイクロホン間距離も60 cmとなって実用的な範囲に入ります.このとき残響時間は式4-4から250 msが得られますので,推奨の範囲内です.
 これを実現するには,図4-7から全表面を吸音率0.42のカーペットや吸音率0.51のカーテンで覆えば良いことがわかります.あるいは一部に非常に吸音率の高い吸音材(例えば布+グラスウールでは吸音率0.9)を貼り付けることでも対処できます.式4-5からα=0.1の面を60%残し,残りの40%にα=0.9の吸音材を貼り付ければαa=0.4が得られます.
 以上の考察は必要な吸音処理を理解するために単純化した例を用いましたが,実際の会議室には家具や椅子や人間が入り,それらも吸音効果がありますので勘定に入れなければなりません.また図4-7には500 Hzにおける吸音率を示しましたが,吸音率には周波数特性がありますので,詳細な吸音特性評価にはそれも考慮しなければなりません.

3) 遮音

 隣り合った会議室などで,こちらの音が隣の部屋に漏れたり,あるいは隣の部屋の音がこちらの部屋に漏れたりすることは避けなければなりません.そのためには遮音,あるいは防音と呼ばれる処置が必要です.一般に重い材料ほど遮音効果が高くなります.また,一般に周波数の高い音ほど遮音効果が大きくなります.
 いま,こちらの部屋で100 dBの音を出し,これが相手の部屋では40 dBに減衰していれば,遮音壁の透過損失(Transmission Loss)は60 dBということになります.透過損失は壁の材料に応じ,また周波数に依存して決まります.
 会議室などの現場で測定して得られる透過損失を,標準の周波数特性(図4-8)で評価して得られる単一の数字の遮音量として,重みつき準音響透過損失(Weighted Apparent Sound Reduction Index) R'wが用いられます.R'wの定義はISO 140-4[4-11]で規定されています.またISO 140-4を日本語に翻訳しJIS A 1417[4-12]が発行されています.R'wの測定方法はISO 717-1[4-13],JIS A 1419[4-14]で規定されています.
 テレビ会議室の壁や天井に推奨される準音響透過損失R'wは48dBです[4-6][4-3]です.ドアについては,隙間が避けられませんので35 dBが推奨されます.従ってドアのある壁ではR'wは48 dBを満たさなくてもやむを得ません.

 

図4-8 重みつき準音響透過損失を求めるための標準周波数特性

遮蔽物の標準的な透過損失を示します.その重みつき準音響透過損失R'wの値は実測値カーブを決められた方法で標準的な透過損失カーブにあてはめ,そのときの500 Hzにおける損失値を求めて得られます.

 

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