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1) 照明の基本

 きれいな画像を作り出すための照明方法は,写真スタジオやテレビ・スタジオの照明でノウハウが蓄積されています.それらはテレビ会議にも適用できますが,テレビ会議は双方向通信であるため,画面を見ている参加者を撮影するという点で,新たな制約が加わります.例えば,きれいに撮影するだけであれば明るい照明の方が好ましいですが,明るすぎると参加者には不快なうえにテレビ会議の画面をきれいに見るには不都合です.
 一般にスタジオの照明光源は3通りです[4-15][4-4].まず部屋を一様に照らすため天井に設置される照明源で,ベースライト(fill lighting)です.テレビ会議室では,資料を見たりしますので事務室と同様,机の上が一様に照らされるよう照明光源は分散配置されます.次に,撮したい参加者の顔を引き立たせるためのキーライト(point lighting)です.参加者の前方に配置された照明光源で顔に一様に光を当て不要な陰や隈ができないようにします.最後に,参加者の肩や頭の後方に光を当てるよう配置され,参加者を背景から浮き上がらせるためのバックライト(rim lighting)です.文献[4-4]には,上記3種類の照明光源いずれか一つだけを使った場合と全てを使った場合の画像が例示されています.
 テレビ・スタジオにおける人物を被写体とする場合の基本的な照明プランは次の通りです[4-15].

  • キーライトはスポットライトを使用し,水平角はカメラ光軸に対し45〜35度,左右いずれかとする.カメラ光軸付近は立体感をそこねるので好ましくない.仰角は人物の眼の位置から45〜30度,高すぎるとあごの下の暗部が見苦しくなり,低すぎると背景に影ができる.

  • バックライトもスポットライトを使用し,キーライトとは反対の側に配置する.仰角は後頭部から45度付近が好ましい.高すぎると胸に前掛け状の影ができるし,低すぎるとカメラ視野に入りハレーションを生ずる原因になる.

  • ベースライトにはフラッドライト(線状に広がった照明光源)を使用し,人物の正面から側面に分散配置する.

 テレビ会議では,これら三種類の照明光源を組み合わせて(three-point-lighting),また複数の参加者を撮影することを考慮し,できるだけきれいな画像を作ります.

2) テレビ会議の最適照明

 ここで,テレビ会議における最適照明の実験例[4-16]を紹介します.キーライトとして100 Wの白熱電球4個を拡散板で覆ったフラッドライトを2灯用い,その位置を変えてカメラで撮像した結果の好ましさと,参加者が感じるまぶしさ(glare),バックライトの効果を調べています.実験の室内配置と提示画像を図4-9に示します.天井灯(ベースライト)のみの被写体垂直面照度は320 lx(ルックス)です.実験結果は次のように要約されます.

  • キーライトの仰角は30〜40度が好ましい.

  • そのときの参加者顔面における垂直面照度は650〜750 lxがまぶしさを感じる許容限界となる.

  • バックライトは一般モードでは効果があるが,講演者モードでは有意な差がない.

 

図4-9 テレビ会議の照明条件実験例

テレビ会議参加者を照らす照明位置(参加者位置からの仰角)と得られる画質および参加者が感じるまぶしさとの関係,バックライトの効果を調べる実験について,室内配置と実験に用いた提示画像を示します.

 

3) 照明の色温度

 照明光源の特性を代表する光色は,色温度(単位はKelvin, K)で表されます.白熱灯は2750 K,温白色蛍光灯は3500 K,昼光色蛍光灯は6500 Kです.LED電球では,電球色相当が2700 K,昼白色相当が5000 K,昼光色相当が6700 Kです[4-17].太陽光の場合,昼間は5000〜6000 Kですが,朝日や夕日では2000 Kに下がります.また,光源によって照らされた色の見え方を表す特性は演色性(color rendering)と呼ばれます.テレビ会議システムでは演色性の高い照明光源が望まれます.
 照明の色温度が3500 Kより低ければ被写体の色は赤みがかって見え,7500 K以上では青みがかって見えます.その様子を図4-10に示します.写真スタジオの照明は5000 Kで,きれいな写真を撮るには適していますが,人間の眼に優しいのはそれより低い色温度の照明環境ですので,家庭やオフィスでは3500 K程度の照明が用いられます.
 これらを勘案し,テレビ会議室の照明光源には4000〜4100 Kの色温度が推奨されています[4-4].

 

図4-10 照明光色温度の撮影結果への影響

この写真は,文献[4-18]を参考に,Adobe Photoshopの色調補正-カラーバランスを調整して作ったものです.

 

4) ヒント

 テレビ会議室で良好な音声・映像を得るための設計指針が文献[4-3][4-4]に記されていますので,ここに列挙します.なお,文献[4-3]にはテレビ会議室のカラー写真がいくつか掲載されています.

a. 部屋の内装

  • まず会議参加者ができるだけ快適に感じられるように設計する.

  • 背景や壁は,参加者の識別が容易になるよう,柔らかな色の織物で覆われているのがよい.あるいは塗装した表面でも良いが,色は抑えたアースカラー(自然の中に存在するナチュラルな色彩で茶系,緑系,青系など)が望ましい.色のついた表面で反射した光が会議参加者に当たると,顔色を変えることになり,特に青みがかったり緑みがかったりすると病的な印象になるので,避けなければならない.テレビ会議室内の家具もそのような色や表面を選ぶ.アースカラー色標本とテレビ会議室内装例を図4-11に示す.

  • 天井は,遮音・吸音のためと照明器具を設置するために,ついていることが望ましい.また照明光の拡散に寄与する表面と色を選ぶ.

  • ドアはカメラ視野に入らないようにする.やむを得なければ表面は光らないように処理する.

  • 窓はできるだけ覆って太陽光の入射を防ぎ,吸音面にする.

 

図4-11 アースカラー色標本とテレビ会議室内装例 

左にアースカラーとはどのような色かその色見本を,右にアースカラー系の内装例を示します.

 

b. 会議参加者の背景

  • 会議参加者の背後でカメラの視野に入るものは,中間色の落ち着いた感じでほどほどのコントラストがあり,柔らかな生地が望ましい.目立つパターンは推奨できない.推奨背景例と避けるべき背景例を図4-12に示す.

  • 動く背景は避ける.揺れるカーテンや人が歩いていると,映像符号化に悪影響を及ぼして画像品質を落とし,また相手会議室の参加者の注意をそらすことにもなる.

  • 同じ理由でカメラは部屋の出入り口には向けない.

  • 会議テーブルは明るい色で,反射のないものを選ぶ.

  • テレビ会議室には不要な家具は入れない,またカメラ視野には散らかった部分が入らないようにする.

 

図4-12 会議参加者の背景例

背景として,左に悪い例を,右に良い例を示します.

 

c. 照明

  • 直接光が参加者,提示物,カメラレンズに当たることは避ける.直接光は目障りなコントラストと陰を生じる.照明は間接照明が望ましい.

  • 鍵になるのは60/40ルールで,天井照明60,壁照明40の組み合わせがよい.いずれにしても参加者に一様な光があたるようにし,暗い影を作らない,会議卓に明るいスポットを作らないことが大切である.

  • 光源は昼光色とし,色のついた照明光は被写体を色づかせるので不可である.

  • 特に注意しなければならないのは,太陽光が会議室に入ることで,太陽光は鋭いコントラストを作り,カメラの自動制御動作を狂わせる恐れがある.窓はカーテンや不透明なブラインドで覆い,部屋に一様な光が満ちるようにすることが望ましい.カーテンは音響環境向上の点でも有効である.

  • ホワイトボードはグレア(まぶしいスポット)を生じ易いので,反射の強くないものを選ぶ.参加者カメラの視野に入らないようにする注意が必要である.

d. 音響

  • 音の吸収と拡散に注意を払う.音の反射を生じる表面は極力避けるべきで,床はじゅうたんで覆う,吸音パネルを設置する,窓に厚めのカーテンを吊す,などが有効である.

  • 床面の吸音も大事で,参加者が歩いたり,椅子を動かしたり,物を落としたしたときその音がマイクに拾われないようにしなければならない.

  • 音の拡散は不規則な部屋の形,室内の装飾品で実現できる.直方体のような部屋は壁と壁の間でフラッター(鳴き竜現象)を生じ易い.

  • 一般に,天井,壁の10%を質の良い吸音板で覆うことにより,質の高い音を作り出せる.可能であれば吸音板と壁の間に20 cmの空間があると吸音効果を高められる.

5) ディスプレイの観視環境条件

 テレビ会議装置を設置する環境では,よい画像を作ると同時に,通信相手からの画像を快適に見えるようにする配慮が必要になります.参考になるのは,テレビジョン画像を主観評価する場合の標準観視条件です.国際標準では勧告ITU-R BT.500[4-19],国内標準ではARIB (Association of Radio Industries and Businesses,電波産業会)の技術資料BTA S-1002[4-20]で規定されています.主なパラメータを図4-13に示します.

 

図4-13 HDTVに対する標準観視条件

テレビ画像の主観評価実験のための観視条件を定めた国際標準と国内標準に記載のパラメータを示します.視距離については両者で違いがあり,ITU-R BT.500は視聴者の好む視距離に基づき,BTA S-1002はHDTV方式の設計に基づいています.

 

 興味深いのは視距離に関する両者の違いです.HDTV方式設計時の考えは,次の通りです[4-21].

  • 臨場感をもたらすテレビにしたい.

  • そのためには,傾いた画像を見たとき傾きにつれて自分も一緒に傾く誘導効果が得られる画面面積8000 ㎠以上が望ましく水平画角20〜30°が必要.

  • そのときの視距離は3Hになる(Hは画面高).

  • 走査線間隔が見えなくなる視距離は,人間の視力1.0が視角1分に相当することから,3Hとなり上記臨場感からの要求値と合致する.

 一方,視聴者が好ましいと感じる視距離については,最近の液晶テレビを用い,実験参加者が車椅子に座り自由に移動して最適な視距離に至る詳細な実験が行われています[4-22].その結果を図4-14に示します.好ましい視距離は3Hより大きく,ITU-R BT.500の推奨値より小さくなっていることがわかります.
 テレビ会議では,全ての参加者が同じ視距離をとれるように席を配置することが困難な場合もありますが,図4-14は有用な指標になります.

 

図4-14 液晶テレビの観視距離

画面サイズの異なる液晶テレビに対し,実験参加者が好ましいとした視距離を示しています.実線は好ましい視距離を,点線は許容される最短の視距離を示しています.この図には合わせてITU-R BT.500で推奨されている視距離も破線で示されています.

 

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