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 H.245はATMによるB-ISDNのネットワーク環境下で動作するH.310端末のために開発されたエンド・エンド間通信制御プロトコルです.H.320端末の通信制御プロトコルH.242に次ぐ新しい世代のプロトコルとしてH.310端末のみでなく,パケットベースの端末全てに通用する汎用性を設計指針としていました.
 H.245ではASN.1表記が用いられていますが,これは1994年11月のITU-T専門家グループ会合で日比慶一氏(シャープ)が提案したことに基づいています[8-59].ATM網の上のH.310システムと並行し,GSTNやモバイル網の上のH.324システムが標準化されていました.そちらでは低ビットレートの通信環境ということで軽い通信制御が想定されていましたが,1995年3月,関係者の話し合いでH.245を採用することが決まりました.ほとんど時を同じくしてパケット網の上のH.323システムでも通信制御プロトコルにはH.245を採用することが決まって,H.245の汎用性を志向した設計指針は目標を達成したと言えます.
 一方,具体的な標準作成にあたっては,各システムからの要求条件を満たすため,だんだんに文書が膨らんでゆき,標準の維持管理が複雑化してきました.筆者はH.245の初版が成立した1996年前後は,H.310システムのラポータ(ITU-T用語で課題責任者を意味する)を務めていましたので,H.245勧告草案のとりまとめの立場にありました.
 H.245勧告草案はメーリングリストを用いた意見交換で編集作業が行われ,1995年11月,何らかの理由で1 MBを越えるH.245草案文書がサーバといずれかの参加者の間で跳ね返り続ける事件がありました.メーリングリストの参加者にはその都度巨大なファイルが送りつけられることになり,当時のインターネット接続は電話回線とモデムによる10 kbit/s程度の狭帯域回線を利用していましたから,それらを取り出すこともできず,ついにはメールボックスがあふれてしまって,世界中から悲鳴が聞こえるようなことになってしまいました.筆者も出張中のジュネーブからメールボックスの管理者に電話し,問題のファイル群を削除して貰ったようなことです.
 また,多様なシステムからの要求で,H.245の改訂も頻繁にならざるを得ず,2017年3月現在,改訂第16版(2011年5月)が最新となっています.筆者も1997年3月には会合で承認された文書と出版に回した文書が異なる失敗を犯し,今度やったらクビにする,とのお叱りを受ける苦い経験をしました.
 そのような苦労の中から第8.1.2項2)で触れましたジェネリック・ケイパビリティの手法が生み出され,少し改訂作業が楽になったのは,生活の知恵と言えます.

 

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