標準化の目的は一言で言えます.それは相互接続性(interoperability)の実現です.異なる製造メーカの製品をネットワークを介して接続しても,組み合わせによることなく,意図したように動作することです.
相互接続性の概念を,身近な電源プラグとコンセント(あるいはテーブルタップ)の接続について説明します.国内的には,どのような電気機器のプラグであれ,壁のコンセントあるいはテーブルタップに刺さり,機器は正しく動作します.プラグもコンセントも日本の国内標準に従っているからです.しかし世界中にはいろんなプラグ,コンセント形状が存在します.
ビジネスの場ではPCを持参し,それを見ながら,あるいは記録を取りながら,会議をしたり,交渉をしたりします.そのとき,まず一番に心配しなければならないのはPCの電源アダプタを現地のコンセントにつないで,充電できるようにすることです.
フランスおよびイギリスのプラグとコンセントの形状を図10-1[10-2]に示します.恐らく国内産業保護のためと思われますが,この他にも実に多様な形状があります.日本のプラグと訪問国のコンセントを適合させるための変換プラグが必要になります.旅行用品として,多様なコンセント形状に適合できるようにするためのツールも販売されています.世界中どこに行っても同じ形状のプラグとコンセントであれば,海外出張や海外旅行のストレスが一つ減ります.
図10-1 各国の電源電圧とプラグ,コンセント
今となっては,対症療法的な解決しかありません.北京で見かけたテーブルタップを図10-2に示します.これは,代表的な形状のプラグであれば,刺さるようになっています.
図10-2 多様なプラグを受け付けるコンセント
電源プラグとコンセントの接続については,物理的な形状の他,電圧の違いもあります.図10-1には各国の電圧が記されています.昔は例えば英国に行く場合100Vと230Vの間の変圧器を持参していましたが,現在ではPCの電源アダプタなど電気機器側で,100V〜230Vの範囲で対応できるようになってきました.
通信機器に関する相互接続性の実現例としてファクシミリを取り上げます.現在広く使われているファクシミリの国際標準CCITT(現在はITU-T)T.4[10-3]は日本からの多大な貢献で1980年にできました.その前後の接続状況を図10-3[10-4]に示します.1980年以前には,各社で独自の規格のファクシミリを製造・販売していましたので,同じ会社の製品間でした通信ができませんでした.しかし1980年以降は,異なる会社の製品間でもファクシミリの送受信が可能になりました.
図10-3 ファクシミリの相互接続性
その結果,日本におけるファクシミリ設置台数は図10-4[10-5]に示すように,年を追って飛躍的に増えてゆきました.日本では当時まだ手書き文書に頼っていた時代ですので,ファクシミリは日本に限った普及ではないかと思われるかもしれませんが,ファクシミリの記録性,不在受信が可能なこと,公衆電話網の接続性と信頼性が相まって,図10-5[10-6]に示すように,世界で共通の普及を見ることができました.国際標準の成功例です.なお,2011年の調査では日本の世帯の約半数でファクシミリを設置しています[10-7].
図10-4 日本におけるファクシミリの設置台数
図10-5 世界のファクシミリ設置台数
相互接続性に類似の概念に互換性(compatibility)があります.プラグとコンセントの例では,A社製品のプラグとB社製品のコンセントが接続可能である点に着目して相互接続性があると言い,同じくC社製品のプラグとB社製品のコンセントが接続可能である場合,プラグに着目してA社のプラグとC社のプラグには互換性がある,と言います.