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 パケット多重によるマルチメディア多重化のもう一つの例として,MPEG-2システムのTS (Transport Stream)を取り上げます.
 
1) MPEG-2システムの用途と特徴

 MPEG-2標準は,通信,放送,蓄積メディアなど多様なアプリケーションに汎用的に適用できる標準を目指して策定されました.二つの国際標準化機関ITU-TとISO/IEC JTC1が合同で作業した共通テキスト標準です.MPEG-2システムはITU-Tでは勧告H.222.0,ISO/IEC JTC1ではISO/IEC 13818-1と番号付けされています[7-30].異なるアプリケーション間で,できるだけ変換することなく,マルチメディア情報を相互に利用できるようにすることが汎用標準の狙いです.
 MPEG-2システムでは,標準化作業開始にあたり,それ以前の蓄積メディア指向MPEG-1に比べ,通信や放送といったリアルタイム性のアプリケーションに対応することが求められました.とりわけ,最初のアプリケーションとしてディジタル・テレビジョン放送が強く意識されていました.実際,現在では,我が国を始め世界中のディジタル・テレビジョン放送番組はMPEG-2システムで送られています.
 テレビジョン放送のディジタル化によって得られる大きなメリットの一つは,従来のアナログ・テレビジョン放送1チャネルの無線帯域で数チャネルの番組を送れることです.従って複数のメディアを多重して番組を構成するだけでなく,一つのストリーム上に複数の番組を載せる多重化の機能が求められます.
 また,通信や放送では伝送に際し伝送誤りが避けられません.そのような場合でも,良好な受信ができる,あるいは素早く回復できる機能も求められます.
 
2) トランスポート・ストリームの構造

 MPEG-2システムでは,符号化メディア情報は一つのメディア毎に適当な単位でパケット化し,可変長のPES (Packetized Elementary Stream)を構成します.このPESパケットを固定長パケットにセグメント化し,そのうえでこの固定長パケット単位でマルチメディア多重あるいは複数プログラム多重を行うのがトランスポート・ストリーム(TS, Transport Stream),PESを単位にマルチメディア多重するのがプログラム・ストリーム(PS, Program Stream)です.PSは,MPEG-1との互換性を保つこと,MPEG-1と同様のアプリケーション(例えばDVDへのマルチメディアコンテンツ収録)に用いること,伝送誤りが無視できる程度の環境下で用いること,を目的として定義されています.
 MPEG-2で新たに定義されたTSは,まずはディジタル・テレビジョン放送への適用を考えて,仕様が作られています.高速の処理をしなければならないこと,パケット化遅延を小さくすること,伝送誤りからの回復を早くすること,ハードウェア処理が容易なこと,から固定長パケットが採用されました.パケット長は,伝送効率を考慮し,またこの仕様を作成当時の1990年代前半はネットワークのATM化が潮流となっていたこと,誤り訂正符号との親和性などの観点から,ATMのペイロード長47バイト(注)の4倍188バイトが選択されたのです.
 PESパケットとTSパケットの関係を図7-19に示します.一つのTSパケットには一つのメディア情報しか搭載されません.従ってPESパケットの先頭はTSパケットのペイロード先頭に配置されます.
 TSパケットの構造を図7-20に示します[7-31].PID (Packet IDentifier)は13ビット長で,一つの番組内の一つのメディア情報パケットは,同一の値を有します.受信側ではこのPID値により各種メディア復号器に送るべきパケットを選択します.タイムベース情報PCR (Program Clock Reference)を送るときには,アダプテーションフィールドの使用を指定し,さらにPCR挿入フラグをonにします.

(注)ATMセルは53バイトからなり,5バイトはATMヘッダです.ATMで回線交換サービスを提供するためAAL1 (ATM Adaptation Layer 1)が定義され,ATMペイロード48バイトの1バイトがAAL1のヘッダに当てられますので,ユーザデータはATMセルあたり47バイトとなります.パケット交換サービスのためにはAAL5 (ATM Adaptation Layer 5)が定義され,ATMペイロード48バイトが用いられます.AAL5では可変長のデータに8バイトのテイラが付きますので,TSパケット2個376バイトのAAL5パケットはちょうどATMセル8個に分割して送ることができます.

 

図7-19 MPEG-2 PESパケットとTSパケットの関係

メディア信号はPES (Packetized Elementary Stream)としてパケット化され,188バイト固定長のTS (Transport Stream)パケットに分割して送られます.1個のTSパケットには1種類のメディア信号しか搭載されません.メディアの識別はPID (Packet IDentifier)値で行われます.

 

図7-20 MPEG-2 トランスポート・ストリーム(TS)パケット

TSパケットは188バイトの固定長で,そのうち4バイトがTSパケット・ヘッダです.PCRなど追加の情報を送る場合は,ヘッダの表示ビットを設定してアダプテーションフィールドをつけます.

 

3) MPEG-2システムのタイムベース同期

 MPEG-2システムにおけるタイミング再生の仕組みを図7-21に示します.送信側ではSTC (System Time Clock)と呼ばれるタイムベースが音声,映像の標本化タイミングを決定します.STCは27 MHzの周波数で動きます.この周波数は,ITU-R BT.601[7-32]が定めるSDTVの標本化周波数13.5 MHzの2倍として選ばれました.ここで発信側の時刻情報を伝えるのがPCR (Program Clock Reference)あるいはSCR (System Clock Reference)と呼ばれるタイムスタンプです.PCRはMPEG-2システムのTS (Transport Stream)で,SCRはMPEG-2システムのPS (Program Stream)あるいはMPEG-1システムで定義されています.MPEG-2ではPCR/SCRは6バイトのフィールドで,パケットヘッダ中のPCR/SCRを表す最終バイトが送り出される時刻を示します.PCRは100 msに1回以上,SCRは700 msに1回以上の頻度で送り出すことが規定されています.

 

図7-21 MPEGシステムの同期の仕組み

27MHzのタイムベースを送受信機間で共有します.メディア情報の提示タイミングはPTS (Presentation Time Stamp)で示され,映像符号化で必要な場合は復号タイミングがDTS (Decoding Time Stamp)で示されます.PTD/DTSはタイムベースに同期した90 kHzのクロックで作成したタイムスタンプです.

 

 受信側では位相制御発振器の系を構成し,受信タイムベースを送信側のそれと同期させます(図7-20のSTC再生).自らのタイムベースが示すPCR/SCRの最終バイト受信時刻と送られたきたPCR/SCR値を比較し,その差を電圧制御発振器にフィードバックすることで,発振器の発振周波数を調整して同期させます.タイムスタンプの差分はパケットの到着ゆらぎなどで変動するおそれがありますので,低域フィルタを通過させることで安定な位相制御発振器を実現します.PCR/SCRの送信回数は,多いほど受信側で安定なタイムベースの再生ができますが,伝送効率の点からは回数の少ない方がよく,上記のように送出頻度の下限が設けられています.
 
4) PTS/DTSタイムスタンプによるメディア間同期

 上記のSTCタイムベースが送受信で同期した時刻情報となります.受信側で音声,映像情報をどのタイミングで提示するかは,MPEGシステムストリームの中のPTS (Presentation Time Stamp)で表示されます.PTSは90 kHz(=27 MHz/300)クロックで数えたカウンタ値で,音声,映像メディア情報のアクセスユニット表示時刻を表します.アクセスユニットとは,音声では複数の標本からなる符号化フレーム,映像では符号化単位のピクチャ(フレームもしくはフィールド)です.
 MPEGシステムには,PTSの他にDTS (Decoding Time Stamp)と呼ばれるタイムスタンプがあります.MPEG映像符号化では,過去からの予測のみでなく未来からの予測を用いるため,符号化に際し入力画像ピクチャの順序入れ替えが生じます.受信側では,復号したタイミングでそのピクチャを表示する場合(Bピクチャ)と一定時間待って表示する場合(Iピクチャ,Pピクチャ)があります.そこで復号タイミングを示すためDTSが用いられます.音声符号化では,また映像符号化でも時間順序入れ替えがない場合には,DTSは陽には送られず,PTSの値が用いられます.

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