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 標準は相互接続性,互換性の実現を第一目的とすることを述べてきましたが,逆に相互接続性,互換性に役立つ決まりは標準と言うことができます.ここでは総称として「標準」を一般名詞として使います.古くは度量衡の決まりや貨幣も一種の標準ということになります.
 現代の標準は,いろいろな機関・団体で作られています.大きくは,公的標準化機関,フォーラム,特定企業に分けられます.
 最も公式的な標準は,テレビ放送の規格のように,国の法律や省令として定められます.次に国もしくは複数の国が認めた公的機関の作る標準です.ITU-T,ISO,IEC,ISO/IEC JTC1などの国際標準化機関,ETSI (European Telecommunications Standards Institute)のような地域標準化機関,TTCやARIBのような国内標準化機関です.これら公式標準化機関の定める標準が国の規定で参照されれば,法律の裏付けがある形になりますので,de jure(ラテン語で,法に従って,の意)標準と呼ばれます.
 これとは反対に,特定の企業が作った仕様が広く行き渡り,標準の機能を果たす場合があります.例えばMicrosoft Wordや日本ビクターのVHS (Video Home System)です.多くの利用者間で文書ファイルや録画コンテンツの互換性が実現されました.これらはde facto(ラテン語で,事実上,の意)標準と呼ばれます.特定企業の仕様であるため,その内容が非公開の場合もあります.しかし利用者からすれば,たとえ仕様を知ることができなくても互換性が得られればそれで十分,と言えます.
 両者の中間に,利害を共にする企業が集まって話し合い協力して仕様を作成するフォーラム標準があります.その一例としてHDMI (High-Definition Multimedia Interface)仕様があります.これはHDTV (High Definition TeleVision)のディジタル非圧縮音声,映像のほか制御信号を機器間で送受信するためのインタフェース仕様で,HDMI Founders(Silicon Image,日立,松下電器,Philips,ソニー,Thomson Multimedia,東芝の7社)が定めました.この他に技術分野毎に,あるいは個別技術毎に多数のフォーラム,コンソーシアムが結成され,標準を作っています.この範疇の最大の団体はIETFです.インターネット標準を作ることで今日では最大の影響力を持つ標準化団体で,実質的には公的国際標準化機関に相当します.
 これら3種類の標準化機関とそれぞれで作られる標準の性格を図10-9の上の表で色分けして示します.

 

図10-9 各種標準

上の表は3種類の標準化機関とそこで作られる標準を示します.青色は公的標準を作る公的標準化機関を,黄色はフォーラム標準を作るフォーラム,コンソーシアムなどの団体を,ピンクは事実上の標準を提供する特定企業を表しています.下の表は同じ色分けにより,標準化機関とその成果物の呼び名を表しています.多様な名前が用いられていますが機能は等しく標準です.

 

 標準化団体で制定する標準は,いろいろな名前が付けられています.文字通りの標準(Standard)以外に規格あるいは仕様(Specification),標準規格と呼ぶ団体もあります.ITUで作る標準は勧告(Recommendation)と呼んでいます.お勧めのレストランという文脈でrecommendationと言いますので,少し威厳を欠く呼び名の印象がありますが,これも機能は標準です.
 最も標準らしくない名前はIETFのRFC (Request For Comments)でしょう.文字通りはコメントを求める,という意味ですから,初めて接すると標準を想像することは困難です.しかしインターネットの世界では,多彩な目的のプロトコルが多数のRFCとして発行され,他機関の標準にも参照されています.もっともIETFでもそのことを意識してのことでしょうか,RFCの成熟度(Status)に応じ,Proposed Standard,Draft Standard,Internet Standardの呼び名を併用していて,Internet Standardと認められたRFCにはRFC番号の他にSTD(Standardの意)番号が付けられます.例えば,TCPはRFC 793で規定され,STD 7が併記されています.
 なお,私的仕様やフォーラム標準が公的標準化機関に提案され,公的標準に変わる場合もあります.公的標準であることにより安定した技術と見なされますし,私的企業やフォーラム組織には寿命がありますので標準としての維持,管理,拡張が永続的な標準化機関で行われる点が長所です.
 例えば,前述のVHSはIEC 60774-1〜5の国際標準になっていますし,Adobe社のPDF (Portable Document Format)はISO 32000-1の国際標準となっています[10-1].また大容量蓄積媒体の番組視聴利用に着目したフォーラムTV-Anytime Forumの仕様は,ETSI標準TS 102822-1〜9として継続されています.
 ここまで,標準と標準化機関が多様になっていることを述べてきました.標準化も競争の環境下にあるということです.その勝ち負けを決めるのは,公的機関であるから尊い,と言うようなことでなく,いかに広く支持され実装されるかにかかっています.中国の最高実力者だった鄧小平氏が中国経済の方向について語ったという図10-10の言葉が当てはまります.

 


図10-10 競争環境下の標準化

標準の有用性を決めるのは,その出自などではなく,準拠製品やサービスがいかに広く行き渡るかです.

 

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